「Oisixおうちレストラン」が創造した新たな市場
(1)「プロの料理体験」という市場
まずは「自分でプロの味を作ってみる」という料理体験を価値とする市場です。在宅時間の増加にともない料理をする機会が増え、レパートリーや料理行為そのものにマンネリ化を感じる人がいる中で、このサービスは「あの名店の味を再現する」という料理体験のエンタメ化によって新たに価値を感じる人を生んだのではないでしょうか。
(2)有名店の「先取り体験」という市場
続いて考えられるのが憧れの有名店の味を「先取りする」という市場です。私が今回注文した「sio」をはじめ、こちらのサービスに登録しているお店は普段はなかなか予約が取りにくい人気店が多い中で、実際にお店に行く前に、自宅でかつお手頃な値段でお店の料理を体験することができるようになったお客さんが増えているはずです。
(3)来店時の「店舗体験の向上」
そしてそんな先取り体験をすることで、多くのお客さんは「お店でシェフが作ったものも食べたい」と思うのではないでしょうか。いくら食材とレシピが同じといえども、実際に料理をする人が変われば味は変わるはず。自分で作った料理が上手くできてもそうでなくても、お店で食べることへの期待値は上がり、それによって実際に来店した際の満足度も、この体験をしていない人と比べて高くなるのは容易に想像できます。
特に現時点(2020年6月)ではまだ外食に積極的に行こうというムードが高まらず、受け入れるお店も感染予防でこれまでより小規模で営業せざるを得ない中で、こうしたお店とお客さんをつなぐアイデアが物理的に離れた両者の距離を心理的に縮め、コロナ終息後も長く応援され続ける一助になるのではないでしょうか。
30年の歴史を持つDisruption
「ディスラプション」という言葉は、近年様々なメディアで目にします。特に最近ではデジタル・トランスフォーメーションの文脈で「デジタル・ディスラプション」という言葉を目にする方も多いのではないでしょうか。
しかし、一般的に使われている「ディスラプション」と私たちTBWAが提唱する「Disruption」はその性質に似ているところはあっても、異なります。
まずはその歴史。Disruptionという言葉は「バラバラに引き裂く」という意味のラテン語「Disruptus」を起源として1820年代ごろから一般的に使われるようになったようなのですが、この言葉を1990年代初頭にビジネスの文脈で初めて使ったと言われているのがTBWAワールドワイドの現会長ジャン・マリー・ドリューです。辞書では「崩壊」や「分裂」といった意味で使われていたこの言葉を「創造的破壊」という意味に捉え直して、破壊的アイデアを開発する方法として体系化して紹介しました。以降、DisruptionはTBWAのDNAとして世界中のメンバーが日々の業務で使っています。
現在メディアを通じて紹介される「ディスラプション」は、主にイノベーションの文脈において「破壊的イノベーション」を生んだ事象やプレーヤーを表す言葉として使われ、その主体である「ディスラプター」は既存のプレーヤーを脅かす新しいプレーヤーとして紹介されることが多いと思います。その中にも私たちTBWAの「Disruption」や「Disruptor」と呼べるものがあることは確かなのですが、必ずしもすべてそうでないのが実状です。