競合と比べるのではなく“圧倒的に違うもの”を生み出す
TBWA HAKUHODO 田貝(以下、田貝):元々は水道会社でありながら、スーツに見える作業着「ワークウェアスーツ(以下、WWS)」の開発や台湾発カフェの展開など、様々な事業を展開されている関谷社長と、Disruptionを提唱するTBWAのクリエイターとして広告にとどまらず幅広い領域でアイデアを形にしている近山は、アイデアに対する考え方が近いのではと思い、今回お二人の対談をセッティングさせてもらいました。対談を通して今回の連載テーマの集大成である“破壊的アイデアの生み出し方”を探っていきたいと思っています。
破壊的思考法「Disruption」とは?
TBWAが提唱する、創造的破壊を促す思考法のこと。「1、Convention(コンベンション)=既存の市場やプレーヤーを見渡し”破壊すべき既成概念”を発見する」「2、Vision(ビジョン)=既成概念を破壊した先の“あるべき理想の姿”を明確化する」「3、Disruption=既成概念を破壊し“ビジョンを実現するアイデア”を開発する」という大きく3つのステップから成り立つ。
▼創造的破壊を促す思考法「Disruption」の詳細については第1回をご覧ください。
競争戦略から“創造戦略”へ ニューノーマルをつくる破壊的思考法
田貝:関谷さんがご自身のブログで「アパレル界のAppleを目指す」と書かれているのに対して、近山さんは全く別のインタビューで「車いす業界におけるiPhoneになる」と話されています。お互いのアイデアに、共通点を感じる部分はありますか?
TBWA HAKUHODO 近山(以下、近山):僕がプロジェクトを担当した「COGY(コギー)」は、世界初の足こぎ車いすなのですが、購入価格が30万円台と、電動のものと同等の金額です。電動のほうが楽で便利なのは言うまでもないので、あえてCOGYを選んでもらう理由を作ることが必要でした。
そこで僕がチームに示したのが、『車いす業界におけるiPhoneになる』という方向性。AppleがiPhoneを発売して、携帯電話のカテゴリーにスマートフォンという新たなジャンルを立ち上げたように、唯一無二の商品になることを目指して生まれたのが、“あきらめない人の車いす”というコンセプトです。
近山:このバリュープロポジションの創造こそがとても重要で、競合と比べてどうとかではなく、圧倒的に違っているものを打ち立てることを意識しています。
オアシスライフスタイルグループ 関谷(以下、関谷):まさに思考の仕方が一緒で、僕らのWWSも正確には、「Apple Watch」を作ろうという話から始まったものでした。Apple Watchは、僕にとってニュージャンルの腕に着けるデバイス。WWSも作業着でもなくスーツでもない“新しいもの”と認識しているんです。
近山:何にも寄らないニュートラルさが大事ということですよね。
関谷:それと、聞いただけでは一瞬意味がわからないインパクトにも近しさを感じます。「あきらめない人の車いす」も「スーツに見える作業着」も、聞いてもどういうものなのか疑問が生じて気になっちゃいますよね。クリエイターと経営者の立場から、やっていることは違うけど、思考回路やアウトプットの仕方はかなり似ているのではないでしょうか。
僕も起業家というよりは、企画屋に考え方が近いように思うんです。プロダクトも変えられるし、垣根もないから何かにとらわれずに色々なことができますしね。
良いアイデアが生まれる瞬間
田貝:企画屋という言葉も出てきましたが、お二人のこれまでのアイデアはどうやって生まれてきたのでしょうか。良いアイデアが生まれるタイミングに、思い当たる経験はありますか?
関谷:僕の場合は明確に、誰かとご飯を食べる時間がアイデアの源になっていますね。1年のうち350日ぐらい外食するのですが、誰と何を食べるかにすごい重きを置いて、おもしろい人、会いたい人とおいしいものを食べるようにしています。その人とどのシチュエーションだったらその時間の幸福値が最大になるかまで考えプランしています。ただしアイデアを生んだり、商談を成立させたりすることを目的にはしません。
そうやっておもしろい人たちと毎日会って意見を交わすなかで、沢山のインスピレーションをもらっているのですが、ばらばらの星が線としてつながって星座になる瞬間がある。それを具現化する感じですね。
近山:僕も色々な人の話から生まれるものの大事さは実感しています。アイデアの出し方は、一人で考えるときと、大勢でディスカッションするときを仕事によって変えています。自分がフロントに立つときは机の前で考える時間を重視しているのですが、ディレクターとして現場を俯瞰してみる立場にあるときは皆とディスカッションする時間を大切にしています。
結局はクライアントの課題にしか答えはないと思っているのですが、良い答えにたどり着くためには、その課題を自分のなかでおもしろいと感じるものにできるかがポイントだと考えています。