福田 保範氏
三井住友カード株式会社
マーケティング本部 マーケティング統括部 部長代理
会員獲得を目的としたプロモーション全般を担当。
久保 拓也氏
三井住友カード株式会社
マーケティング本部 マーケティング統括部
会員獲得のためのプロモーションのうち、主にリスティングやディスプレイ・各種DSP広告を担当。
塚原 光映氏
LINE株式会社
クライアントセールス第2事業部 クライアントパートナーチーム
クライアントに向けLINEを活用したマーケティングソリューションの提案を担当。
専門部署を新設、データマーケティングにさらに注力
MZ:三井住友カードさんの事業内容について教えてください。
福田:主な事業は、個人・法人向けクレジットカード事業、事業主へのキャッシュレス端末の導入事業、そして加盟店向けデータ分析支援サービス「Custella(カステラ)」、キャッシュレス決済などのデータ利活用事業の3つです。
MZ:現在のマーケティングの組織体制と、福田さんと久保さんの担当領域をうかがえますか?
福田:当社ではマーケティング統括部というブランド戦略からWEB広告を用いた獲得まで取り組む体制があり一貫したマーケティングを実施しております。2020年4月からはデータ戦略部を新設し、併せて別のセクションだった会員事業部も統合しました。これによって、LTVも加味したデータ戦略を立てられる体制や意識が整いました。
私たちはそのマーケティング統括部内において、コンテンツマーケティングやWeb広告の運用など、カード会員獲得のプロモーションを担当するチームに所属しています。
久保:私は前職で運用型広告の経験を積んだのち2019年9月より当社に入社、現在は福田のチームでLINEさんとの取り組みを含め、主にリスティングやディスプレイ広告・各種DSP広告を活用した認知から新規会員獲得までの領域を担当しています。
申し込み後もカードを長く使ってくださる方に接触したい
MZ:マーケティング統括部におけるプロモーションの取り組みについて教えてください。
福田:当社のクレジットカードは国際ブランド「Visa」を国内で最初に発行する事で信頼いただいており、「Visaと言えば三井住友カード」と評価されてきました。しかし近年、様々な業種のプレーヤーの参入で利便性や利得性の高い新たなクレジットカードやその他キャッシュレス決済ツールが増加し、国際ブランドや信頼性という観点だけでカードを選ばないお客様も増えてきました。
そこで2018年、当社はクレジットカードを中心とするキャッシュレス決済のリーディングカンパニーとしてお客様に何を提供するのか、世の中にどんな貢献を果たすべきかを社内で議論し、「Have a good Cashless.-いいキャッシュレスが、いい毎日を作る。-」というスローガンを打ち出しました。
MZ:その後、2019年にクレジットカード会員向けアプリのリニューアル、今年2020年には30年ぶりにカードデザインを刷新するなど、生活者視点でも御社の施策を見聞きする機会が多くありましたね。
福田:キャッシュレスによって生み出される価値を追求し、その魅力を知って会員になっていただけるマーケティング戦略を立案・実践しています。しかし、先述したスローガンなどは抽象的になりがちで、それを起点にサービス認知から申し込みにつなげるのは、かなり難しいことでした。
さらに、クレジットカードには申し込み後に「審査」というステップが入り、発行に至らない場合もあります。すると、プロモーションにかかる広告費は発生するものの、まったくリターンがない状態となります。せっかくお申し込みいただくなら発行の段階に進み、さらに継続的にお使いいただける方々にアプローチしたいという思いがありました。
LINE公式アカウントの活用データを活かし、新規顧客獲得を効率化
MZ:確かに、クレジットカードは申し込みの獲得がゴールではないですよね。
福田:先ほど、ユーザーの獲得時からLTVの観点も意識するようになったとお話ししましたが、当社の「Have a good Cashless.-いいキャッシュレスが、いい毎日を作る。-」という世界観への共感から会員化を経て継続利用につなげるため、どのようなデータ戦略が有効なのかを模索していました。
そこで、当社の会員向けWebサービス「Vpass」のIDとユーザーのLINEアカウントを連携し、その上で得られた顧客データを基に、LINEさんのクロスターゲティングを活用したオーディエンスの拡張配信を塚原さんから提案いただきました。
MZ:クロスターゲティングの詳細を教えていただけますか?
塚原:LINE広告、LINE公式アカウント、LINEポイントADなど、LINEは複数の法人向けサービスを広告主様に提供しています。これらを横断する形で運用データを活用できるのが「クロスターゲティング」です。企業が保有するデータをLINE内の複数サービスで最適に利活用できるようにすることで、効率的な広告配信が実現します。今後は、施策の結果もユーザーの行動を含めて横断的に可視化・分析し、効果の最大化も図れるようになる予定です。
塚原:三井住友カードさんでは、昨年からLINE公式アカウントを活用して既存会員向けに情報発信やサービスを展開されていました。その方々のデータを分析し、新規顧客獲得のための広告配信に活かすことを提案しました。
ロイヤル顧客と似ているユーザーへ拡張配信
MZ:三井住友カードさんがLINEのサービスを活用された経緯について教えてください。
久保:先ほど福田が「認知から申し込みまで」と話したように、Web広告もフルファネルで一気通貫したコミュニケーションを実現できるよう、認知~獲得、その先の利用までの各フェーズで実行可能なメニューを持つ媒体を選んでいました。LINEは昨年度から導入していますが、年齢、地域、その他属性に偏りなく8,400万(2020年6月末時点)ものユーザーを擁するプラットフォームは他にありません。また、1日のうちでユーザーが何度もアプリを利用するので、広告配信のリーチやLPへの流入にも期待でき、獲得にまでつなげられるのではないかと考えました。
MZ:久保さんのお立場から、クロスターゲティングにどういった期待がありましたか?
久保:ひとことで言うと、まだ出会えていない潜在的なロイヤル顧客との出会いにつながるのではないかという期待がありました。VpassのIDを持っている時点で普段から弊社サービスをご愛顧いただいていると認識していますが、さらにひと手間かけて普段から利用されている自身のLINEアカウントと連携している方はさらにロイヤルティが高いと推測し、LINEで得られたデータと当社のデータを統合した上でクロスターゲティングを活用した広告配信ができれば、リーチの質が高まると考えました。
MZ:クロスターゲティングの実施時期と具体的な取り組み内容について教えてください。
久保:実施時期は、2020年の2月からです。LINE公式アカウントを友だち追加していて、かつ直近で一定額の利用がある方のデータを抽出し、その属性に近いオーディエンスを類似拡張してLINE広告を配信しました。
「オプトインしているユーザーへの配信」という観点
MZ:クロスターゲティングを活用した広告配信の成果について教えてください。
久保:2~3月の2ヵ月間の分析では、通常、LINE広告の類似配信をしていた時と比較してカードお申込み後利用率は1.5倍となりました。
最初の1ヵ月は、クロスターゲティングで使用するデータがやや不安定だったこともあり苦戦しましたが、2ヵ月目は最適化が進んだことでデータも安定し、コンバージョン率が向上しました。カードお申込み後利用率1.5倍というのは実はリターゲティング配信と同等の数値で、非リターゲティングの施策としては非常に大きな成果を得られたと考えています。
福田:当然ですが、ブロード配信(ターゲティングを行わない広告配信)ではここまで数値が伸びることはなかなかありません。従来、クリックから申し込みにつなげるためにリターゲティング配信に偏りがちでしたが、クロスターゲティングの活用によって、これまで接点がまったくなかったけれど、ロイヤル顧客になり得る方々に効率良くリーチできる先進事例ができたと思います。
MZ:単なるクリックや申し込みのフェーズではなく、その先のカード発行・利用にもつなげられたのは大きな成果ですね。他に、クロスターゲティングの活用に関して手応えはありますか?
福田:2020年6月には改正個人情報保護法も成立しましたし、海外ではGDPRなどデータ保護規則の話題も多いですよね。なので、今やオプトイン(ユーザーへの広告配信時に事前に許可を得ること)のない配信はあり得ないと思っています。その点で、LINEから各種情報の受領を承諾しているユーザーに広告配信ができるのは非常に助かりました。
まだ出会っていない顧客と継続してつながるために
MZ:確かに、個人情報保護の順守は必須ですね。では最後に、今後の展望をうかがえますか?
塚原:LINEとしては、今まで以上に効果と効率を重視して、まだリーチできていない潜在ロイヤル顧客にアプローチできるよう、クロスターゲティングの改良を進めたいと考えています。三井住友カード様が保有されている膨大な種類と量のデータには、分析や活用の仕方によってさらに多くのお客様と出会える可能性があると思うので、データの抽出条件も含めて引き続き相談していければと思います。
久保:実はクロスターゲティング実施前に、刷新されたカードデザインの認知を高めるためにLINEのトークリストの最上部に表示される広告「Talk Head View」に出稿しました。その際、当初はあくまでも認知施策として実施するつもりだった為、獲得の拡大は期待していなかったのですが、実施後想定以上の会員獲得に繋がったので、Talk Head Viewを含めたクロスターゲティングには獲得も期待できるのではと考えました。
とはいえ今後は広告の類似配信という切り口だけではいずれオーディエンスの母数が減少していく懸念があるので、リーチの拡大のため、類似ターゲティングを敢えて除外したターゲティング配信なども模索していきたいです。
福田:同感です。現状では既存顧客の属性分析からオーディエンスを抽出するという実績ベースの配信になっていますが、ユーザーの行動や気持ちをベースとしたデータ抽出を行い、それに合致する方々にアプローチできたらと考えています。まだ出会っていないお客様に、当社カードを通じて“キャッシュレスがつくるいい未来”を体感いただけるよう、LINEの各種サービスを活用して事業を成長させていきたいです。