応用編:消費増税が販売量に与えた影響は?
ここからは、時系列分析の応用編を紹介したい。時系列分析を用いれば、当然将来値の予測も行える。今回はその予測の枠組みを使って、キャンペーンなどのマーケティング施策や消費動向に影響する法改正が及ぼす効果などを測定する方法を見ていこう。
測定のロジックは、まず施策を打つ前期間のデータに時系列分析を当てはめてモデルを作る。次にそのモデルを用いて施策を打った期間における予測値を算出する。これを「施策を打たなかった場合の値」という仮想的な指標として扱い、実際に得られている施策期間の値と比較して、その効果を求める、という流れである。
例として、マーケティング施策ではないが、2019年10月に実施された消費税増税がその後(2019年10〜12月)の低アルコール飲料商品(チューハイ、カクテル、ハイボールなど)の小売店販売量(容量ベース)に影響を与えたのかどうかを、SRI月次データを使って測定してみる。低アルコール飲料は元々上昇トレンドをもっており、前年比などの数字が増加していた(100%を超えていた)としても、これだけでは増税の影響を捉えることはできない(図表2)。

そこで次のように分析してみる。まず、増税以前の2017年1月〜2019年8月(2019年9月は駆け込み需要でデータが不規則な動きをするため除外)のデータを使い、予測のためのモデルを作成する。
手法には、時系列分析の一種である「状態空間モデル」を用いた。次にそのモデルを使い、2019年10月以降の予測値、つまり「増税がなかった場合の販売量」(図表4の実線)を求める。これを「仮想販売量」と呼ぶことにする。最後に、仮想販売量と実際の販売量(図表4の点線)との比率を見ることで効果量を算出する。

分析結果は図表3のようになった。10月は値が100%を下回っており、増税直後の落ち込みが見られるが、その後2ヵ月はわずかに100%を超えている。これは、元々上昇トレンドをもち、年々高まっていた低アルコール飲料の需要が、増税によって弱まるどころかさらに高まった可能性が示唆される。理由としては、他のアルコール飲料から低価格な低アルコール飲料への流入が考えられる。また、10月に全国展開された日本コカ・コーラ「檸檬堂」シリーズの大ヒットや、キャッシュレスのポイント還元政策、増税をきっかけに外食を避け「家飲み」をする人が増えたことなども、消費を後押ししたと思われる。

このように、時系列分析を利用すると施策や法改正等の何らかの介入があった場合、その効果をより厳密に測ることができる。たとえば、新型コロナウイルスが自社製品の売上に及ぼした影響なども同様の流れで測定することが可能だ。