安易な施策にはしっぺ返しがある
栗原:才流の栗原です。今回は、freeeの執行役員、SMB事業部長の川西さんと対談させていただきます。普段なかなか聞けない「失敗談」「そこから得た学び」をテーマに、施策、組織、戦略、大きく3つの切り口で進めていきます。
freee株式会社 執行役員/SMB事業部長 川西 康之さん
東京大学法学部在学中に起業。以来10年以上にわたってWebマーケティング会社、システム開発会社、総合型地域スポーツクラブなどの経営に携わり2016年より現職。趣味は将棋観戦。
川西:よろしくお願いします。早速最初の「施策」について、特に印象に残っていて、SaaSビジネスとして繰り返してはならないと思っているのが、目の前の誘惑に負けてしまった失敗です。
栗原:と言いますと……?
川西:当社のビジネスは、たとえば個人事業主様向けの事業の場合、確定申告の締め切り近くが繁忙期となり、獲得が一気に加速するんです。それをさらに加速させよう、最大化させようと、クーポンを乱発し、それを配るためにメールもたくさん送っていました。
獲得という点では失敗ではなく、一定の効果はあるんです。ですが、しばらくして振り返ってみたときに、当該施策から獲得したお客様のチャーンレートがとても高くて。「やらないほうが良かったのではないか」と感じることが、ままありました。安易な施策をやったときには後からしっぺ返しがある。教科書みたいな話ですね。
栗原:川西さんでも罠に陥ることがあるのだな、というのが率直な感想です。
川西:メールも同じで、乱発すると「freeeからのメールって、プロモーションのメールなんだね」とお客様に思われてしまい、新しいプロダクトに関するお知らせや便利な使い方といった大切な情報が埋没してしまう。目の前の獲得、目の前の事業成長を優先するあまり、本来大切にすべき部分を棄損してしまったという意味で、痛い思い出ですね。
栗原:クーポンのような施策はLTVが低いお客様が取れがち、というのは一般的によく聞く話だと思うのですが、「止めておこう」という話にはならなかったのでしょうか?
川西:今思えば、おっしゃる通りなんですよね。ただ、freeeって成長速度がとても速い会社で、「(気分が)ハイになってしまっている」状態だったと思っていて。「もっといけるんじゃないの」と。
「クーポンに頼るのは、世の中的には良くない面があるけれど、自分たちは伸びている。自分たちがやればうまくいくんじゃないか」と、正直思っていました。でも、そんなことは絶対になかったですね。