歯車を見極めて回す
細かいPDCAを回すのも重要ですが、効果の最大化を考えなければいけません。大きくてクルクルとよく回る歯車を回していると仕事をしている気分になり「昨日は5回しか回せなかったのに、今日は10回も回せた!」と満足感も得られます。そして、大きな歯車は目立つので周囲の方も評価しやすい。でも、この歯車が事業の成長に大きな効果をもたらさないものだったら?
意味がないとは言いませんが、他のことに注力した方がいいでしょう。そこで、事業を成長に導くドライバー(回すべき歯車)はどこなのか? と誰もが思うのですが、なかなか見つからないんですよね。

そこで、私はCRO(チーフレベニューオフィサー)とともに脳に汗をかきながらドライバーを探し続けました。それは睡眠中に、夢の中で数字の羅列とスプレッドシートが毎日のように出てくる日々の始まりでもありました。しかし、どんなに数字をひっくり返そうとも私が欲しいデータにはたどりつかなかった。Googleアナリティクスのアカウントもプロパティもバラバラでセッションがつながっておらず、Googleタグマネージャーのコンテナもバラバラで、CRMのデータも整理させれておらず、商談、受注した顧客の獲得がどのチャネルなのかハッキリしない。「どうしよう……?」顔には出しませんが、この段階で焦りが出てきます。ドライバーを必死に探してはいるものの、必要なデータがないので、なかなか判断ができないわけです。周囲からの私への期待を肌でビシバシと感じつつも、成果を出すこともなく時間だけが過ぎていく。これはまさに、前回の記事で紹介した「そもそも必要なデータがそろっていない問題」です。ということで、まずは必要なデータをしっかりとそろっている状態にする、つまり、データガバナンスのドライバーを回すことにしました。
チェーンの一番弱いところに手を打つ
必要なデータが整い始め、判断材料が増えてきて、データガバナンスの次に回すべき歯車を見つけました。それは、受注後のオペレーションです。「あれ?いつになったらデジタルマーケティングをやるの?」と思ったかもしれませんが、マーケティングだけが全速力でアクションを起こしても、どこかの部署で目詰まりを起こすと、事業全体の成長は望めません。エリヤフ・ゴールドラット氏による書籍『ザ・ゴール―企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社)で紹介している、TOC理論(制約条件の理論)では組織を1本のチェーンにたとえて説明しています。本書は製造業をメインに理論を説明しているのですが、ここではマーケティングに置き換えて考えてみましょう。つまり、認知を拡大し、リードを獲得し、インサイドセールスが商談をセットし、営業がクロージングして、カスタマーサクセスが顧客をサポートする。乱暴ではありますが、この流れが連結しあって、チェーンのようにつながっている状態を想像してください。

では、ここで質問です。チェーンの両端を持って、思いっきり引っ張った際、チェーンの強度はどこで決まるでしょうか?つなぎ目? 右端の輪の硬さ? 違います。一番弱い部分が、チェーン全体の強度を定義します。
チェーンを構成する、それぞれの輪は400kgまで耐えられるけれど、1つだけは100kgまでしか耐えられないとします。両端から400kgで引っ張ったら、100kgまでしか耐えられない部分が千切れますよね。マーケティングがリードをたくさん集めても、インサイドセールスが営業に送客できなければ、商談は生まれません。そして、たくさん受注できてもカスタマーサクセスが機能していなければ、クレームの嵐になり、すぐに解約されるでしょう。もちろん、部門ごとでKPIの数字を追い求めることは大事ですが、しっかりと事業全体を俯瞰的に見て、チェーンの一番弱いところを見極めて手を打つことが重要です。なので、その当時一番手を加えなければいけないと判断して、受注後の出荷オペレーションの改善を最優先事項にしました。