アウトドア愛好者から妊婦、モーニング娘までも着用!
今回紹介する書籍は、『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』。著者は、日経クロストレンド記者の酒井大輔氏です。
この本は酒井氏が、ワークマンのヒットの仕掛け人、土屋哲雄専務に取材し執筆したもの。土屋氏は、東京大学経済学部卒業後、三井物産に入社。三井物産デジタルの社長を経て、本社経営企画などに関わってきた人物。現在はワークマンの専務として、新業態である「ワークマンプラス」だけではなく、既存業態の「ワークマン」の好調も支えています。
同社は数年前からメディアにも取り上げられ、アウトドア愛好者から妊婦まで様々な方に愛用されるブランドになりました。また、2019年にはモーニング娘。が「ワークマンコーデ」に変身して、新曲のMVを歌うなど続々と話題に。さらに、ユニクロよりも多くの実店舗を抱えるにもかかわらず、コロナ禍の現在でも快進撃が続いています。
では、その秘訣はどこにあるのでしょうか。まず、アウトドアに軸足を置いた売り方への変革です。実は、職人のために作られたワークマンの商品たちは、消費者が驚くほどの高性能と安さを兼ね備えていました。そのため、商品を変えることなく、売り場のイメージを変えることで顧客の拡大に成功したのです。
土屋氏がワークマンで変革したのは、売り方だけではありません。社内研修・新人研修・直営店の意味づけを変え、勘に頼って店舗経営をする「勘ピューター経営」から「データ経営」へと社内体質を変革しました。まず、データ経営を浸透させるために土屋氏が始めたことは「社員全員にエクセルを使えるようになってもらうこと」でした。一人一人が勘ではなくて数字に基づいて考えられる、小売りのデータ経営集団にする取り組みを進めていたのです。
データサイエンティストは必要ない
では、どのようにして多くの社員にデータの知識を広めたのでしょうか。土屋氏が行ったのが、直営店を「トレーニングストア」と割り切って運用することでした。
たとえば、新入社員であればすぐに直営店に配属され「店長」となります。けれども、店長にもかかわらず業務管理をしなくていいことになっています。店に立つ基本姿勢を重視し、プラスアルファでデータ活用できるかを見ていきます。具体的には、自分で売り場を改善して、成果が出たかどうかをデータベースを見て判断します。店長を務めさせながら、こうしたデータ活用のイロハを叩き込みます。
これらは完全にカリキュラム化されており、年次に合わせて研修も組み込まれています。AIなどでは相関関係を見つけることができますが、因果関係を見つけることができません。ビジネスで必要なのは、因果関係を見つけることです。「AIはたちどころに答えを見つけてくれますが、社員が考えなくなってしまう。だからエクセルがいい」と土屋氏は言います。
土屋氏は、こうして社員に考える力をつけていき、自分で仮説を探せる社員を地道に増やしていったのです。その源泉にあるのは「とにかく競争したくない」。今ある魅力に気づいて、誰もが気づかなかったすき間を見つけて、徹底的に攻め込む。こうすることで大躍進を遂げることができると言います。
本書では、こうしたポジショニングをフィールドワークと日々の気づきから売るための突破口を紐解くヒントがわかる本です。気づいてない自社の魅力、根底にある考え方がエピソードでわかる一冊です。
日々新商品・サービスがリリースされ、目移りするくらいたくさんのモノやサービスが出回っています。けれどももし、今のやり方にマンネリ感があるのだとしたら、今あるものを使ってどう行動するか、まず試してみるというのを本書で学んでみてはいかがでしょうか。