広告の競争相手はありとあらゆるコンテンツに
今回紹介するのは、『ブランデッドエンターテイメント お金を払ってでも見たい広告』。著者は、国際的な広告クリエイティブの祭典「カンヌライオンズ」の審査員15人です。2017年同祭典のブランデッドエンターテイメント部門の審査員長 PJ.ペレイラ氏の呼びかけにより作られた本書、日本語版の監修・翻訳を手がけたのは、著者の1人であり、コンテンツ・広告制作を手掛けるSTORIESのCEO 鈴木智也氏。
映画、音楽、舞台、ライブ、ニュースなど、コンテンツをどんなプラットフォームで楽しむかが、消費者に委ねられている時代。ブランドのコミュニケーションの競争相手は、もはやライバル企業だけでなく、生活者の目の前にある、ありとあらゆるエンターテイメント、コンテンツといえる状況です。今までは広告枠を買えば、同時に消費者の時間を買うことができましたが、Netflix、Hulu、Amazonプライム、Spotify、YouTube Premiumなど、アドフリーのプラットフォームも台頭し、デジタルにおける消費者の時間獲得競争はさらに激化しています。
そんな中で本書は、世界で注目を集めた広告には、「ブランデッドエンターテイメント」という手法が用いられていると説いています。
お金を払ってでも見たい「ブランデッドエンターテイメント」
ブランデッドエンターテイメントとは、ひと言でいうと、エンターテイメントコンテンツにブランドのメッセージを乗せて、観客に届けるもの。つまり、消費者に貴重な時間を使いたくなるようなエンターテイメント性のあるコンテンツを視聴・体験してもらうことで、ブランドはメッセージの伝達、ブランド好感度の向上、商品購買といった目的を達成していきます。
一例として、BtoBマーケティングに注力しているネットセキュリティ企業NetScoutが制作した90分間のドキュメンタリー映画『Lo:インターネットの始まり』を紹介します(※下記動画は一部内容)。
同社のサービスはエンタープライズ向けで、その料金は月に数十万ドルに達するものも。そうしたサービスの特性から、同社はCEOや経営幹部など企業の上層部とコミュニケーションを取る必要がありました。複雑で高価なセキュリティサービスの必要性を理解してもらわなければならなかったのです。
最もわかりやすい方法は、大規模ネットワークの運用にともなうリスクを、プレゼン資料のチャートで示すことであったかもしれません。しかし、それでは必要な情報は伝えられても、与えるべき感情的なインパクトを生み出せないと、同社はネットの力と脆弱性を露わにする長編映画を制作したわけです。
その結果、同社のネットでの検索数は25億から250億に増加。30年の社歴の中で、最多となる新規契約の問い合わせを得ました。また、Netflixなどに映画の配信権が売れたことで、製作費も回収。さらには、この作品によって、ネットセキュリティが多くの企業のCEOの間で重要な関心事に。以前はメッセージを届けられなかった、企業のトップやステークホルダーにまで、ブランドを周知することができたのです。
本書では、このように様々なブランデッドエンターテイメントの事例を基に、各審査員が消費者の態度変容を促す知見・アイデアを紹介。また、本書の事例をまとめて視聴できるサイトも公開しています。
マーケティング、広告、コミュニケーションに携わる方は、ぜひ本書を通じて、世界の広告の潮流をつかんでみてはいかがでしょうか。