ファンベース施策を「宣伝部」で開始
徳力:第二回の「Withファン」では、アサヒ飲料の菅根さんをお招きします。今日の背景画像は、皆さんにもおなじみの「あの」柄ですね。
菅根:はい、「カルピス」の水玉を背景に使ってみました。今日お話しする「カルピス」のファンと集う「みずたまラボ」にちなんでいます。
私の所属する宣伝部は、広告の制作やプランニングを行うクリエイティブグループ、メディアのバイイングやオウンドメディア運用を行うメディアグループ、そしてパッケージなどのデザインを開発するデザイングループの3つに分かれています。私は3グループを統括してみる立場ですが、ファン施策はクリエイティブグループの広告施策、という位置づけでスタートしました。
徳力:宣伝部というとマスメディアを動かす部署ということもあり、小さな規模で行うファンベース施策を主幹される例はめずらしいと思います。
菅根:どちらかというと、マーケティング部などが主導されることが多いですよね。もちろんマーケティング部とも連携をとっています。
徳力:マーケティング部や、SNSなどを運用しているデジタル専門の部署の導入が多いですね。そもそも、なぜ宣伝部でファン施策を行う流れになったのでしょうか?
菅根:ひとことで言うと、私がやりたいと思っていたから……ですね(笑)。ファン施策に興味を持ったきっかけは、さとなお(佐藤尚之)さんの著書『ファンベース』(ちくま新書)を読んだのがきっかけです。さとなおオープンラボにも行かせていただき、ずっと自社でもやってみたいと考えていました。
徳力:私もさとなおオープンラボ出身なので、やりたくなる気持ちはよくわかります。ただ、宣伝部にファンベース施策が必要なの? という社内の軋轢はありませんでしたか。
菅根:元々、2009年から7月7日の「カルピス」の誕生日には社員参加型の店頭試飲イベントを行っており、直接お客さんとコミュニケーションをする大切さを知っている土壌が社内にあったのは大きかったです。
アサヒ飲料「ファンベース施策」の3つの目的
徳力:「ファンベース」施策の目的は、どのように掲げたのでしょうか。
菅根:目的は複数掲げました。開始時は、LTV(Life Time Value)の向上を基本的なミッションとしてあげ、今もそれは変わらず掲げております。しかし、施策でお招きするファンの数は非常に限定しているので、ROI視点でみると効率はよいとは言えません。
徳力:年間販売量が数千万から億ケースの飲料の規模感とは、まったく違いますもんね。
菅根:飲料の世界は流入と流出の動きが激しいので、コアファンをいくらキープしようとしてもファンの流出は避けられませんから、LTVだけを目標に掲げても難しいと思いました。そこで、ファンのオーガニックな声による「ユーザー・ノンユーザーのファン化促進」も施策の目的としました。ファンの方の声によって起こる周囲の方の態度変容はとても強いものがあると思いますので、コアファンに商品の価値を伝えていただくことで、新たなファンを作ろうと考えたのです。
ただ、これでも数といえば30~40名と限られた方々となります。よかったとご意見を頂けると嬉しいのですが、飲料という業界の規模からいくとこの考え方だけで100万ケース売れるとはならないのです。
そのため更なる目的として、ファンの声を聞いてそれを商品開発やコミュニケーション施策といった“マーケティング活動に活かしていく”ということを意識し始めています。