企業はルールの遵守者から設計者へ:ガバナンス・イノベーションの思想
高橋:ガバナンス・イノベーションの考え方について教えてください。
村瀬:中心となるのは、ルールベースの法規制を見直そうという考え方です。これまでは事業者の行為をあらかじめ規制するのが法規制の在り方でしたが、ガバナンス・イノベーションの考え方では、政府は「これをしてはいけない」という具体的な規則ではなく、「これを達成しましょう」という抽象的なゴールを示す立場になります。
ゴールに到達する方法は、事業者それぞれのやり方にお任せすることで、イノベーションを促進します。同時にその過程をオープンにしていただくことで、政府や個人がモニタリング・評価を行い、改善が必要な課題が見つかった際には、改善していただくというサイクルです。

高橋:この考え方が実現すると、政府、企業、個人の役割は大きく変わることになりますね。今後の議論に期待したいです。最後に、経済産業省として今後目指していくデジタル市場の在り方、私たち事業者に協力してほしいことなどがあれば、お話いただけますか。
村瀬:データの利活用とプライバシーの保護を二項対立的に捉えるのではなく、両立を図ることが必要になってくるでしょう。プライバシーに関する問題への向き合い方を経営課題として捉えることが、消費者の皆様にとってポジティブに映り、結果として企業価値の向上につながるような世界になってきています。
繰り返しになりますが、データの利活用を伴う事業に取り組むに当たっては、法的観点、社会規範上どのようなリスクが生じうるのかを事前かつ継続的にアセスメントし、消費者等のステークホルダへの説明も含め、積極的に対策を講じていくことが欠かせません。経済産業省としても、事業者の皆様がそうした対策を講じるために参照できるようなガイドブックの更新や好事例の収集など、必要な取り組みを進めてまいりたいと考えています。

高橋:規制ありきではなく、特に経済産業省においてはイノベーションを促進していきたい、という強い想いを感じました。我々事業者側からも、行政に対して怖がらずにコミュニケーションをとっていく必要がありますね。
村瀬:事業者や業界団体がイノベーティブな方法で自主的に市場の課題を解決していくことがベストであると、私たちも考えていますし、特にデジタル領域においては、行政がキャッチアップしきれていない知見を事業者の方々がお持ちのことも少なくありません。経済産業省は事業を応援する立場でもありますので、ぜひ積極的に情報提供をいただければ嬉しいです。
高橋:本日はありがとうございました。