コロナがもたらした「コト」のデジタルシフト加速
以上から、どれくらい続くかわからないウィズ・コロナの時代、企業が消費者に寄り添う手段として、デジタルシフトに可能性があることが、様々な調査結果から見えてきた。特に、テレワークの浸透で余剰時間が増えつつある現在、この「時間」を人々がどう過ごすかが大きな転換点になる。
では、人々の時間の過ごし方では、どのような変化が起こるのだろう。久我氏は「ビフォーコロナでは、『モノからコトへ』と、モノではなく経験やサービスに対する消費が目立ちましたが、コロナ禍においては、『コト』がデジタルシフトしているという大きな変化があります」と述べ、診療やフィットネスなどを例として挙げる。これらの対面が常識だったサービスでもオンラインでの提供が始まり、ユーザーもそれに適応している状態だ。
「そうなると、店舗しか対応できないサービスや、ローン契約など紙やハンコなどアナログ手続きを要するビジネスプロセスは、今後消費者に選ばれにくくなります。実際、料理教室やワインのテイスティング、着物の着付けなど、対面が必要だったサービスも、事前に材料を送付してオンラインで講座を開くなど、工夫をしながらデジタルシフトが進んでおり、まだ工夫の余地はあると思っています」(久我氏)

今後のキーワードは「時間のゆとり」
デジタルシフト以外にもう1つ、消費者の傾向として今後顕著になりそうなものがある。それが「時間のゆとり」だ。
働き方がデジタルシフトするなか、家族を重視したり、副業や兼業に勤しんだりなど、ワークライフバランスや生活が多様化している。内閣府の調査でも、半数の人が「家族の重要性を意識する」と答えており、子育て世代の約7割が「家族と過ごす時間が増えた」と述べ、この傾向を維持したいと答えている人が8割強に上るという。
働く場所、生活場所に関する考えにも変化が生じた。特に20代の東京23区居住者は、地方移住の希望が増え、全体の移住希望者約15%に対して「約35%が希望」と高い傾向を示している。働く場所と時間の制約が弱まったことで、多種多様な働き方、生き方を望む人が増えているのだ。
久我氏は「これにより、出産・子育てや介護に従事する女性、同じく親の介護問題に取り組む世代の男性も、多様な働き方が可能になり、柔軟な働き方、家族との時間、余暇時間の創出が出てくるのではないでしょうか」と予測。子育て世代の場合、夫婦そろって育児休暇を取るといった柔軟性の高い働き方が進み、さらに余暇時間を取るために、シッターサービスや家事サービスの利用も、今後ますます加速する可能性がある。
中長期的には、引き続き60代以上のシニアマーケットも注目だ。この世代は日本の家計金融資産の約66%を保持しており、デジタルシフトが加速しているので、この世代に向けたデジタルサービスも需要が伸びる可能性が高い。
久我氏は最後に「感染不安からのデジタルシフト、それによってもたらされる『時間のゆとり』が、今後の消費活動のキーポイントになると思います。生活満足度を分析すると、通勤時間の長さと生活満足度は反比例にあり、時間が長くなればなるほど満足度は低下しますが、そこで幸福感を高めるためにも、いかに『時間のゆとり』に貢献するかが、今後の価値提供につながると思います」と述べ、講演を終えた。
