この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル』Vol.40, No.2の巻頭言を、加筆・修正したものです。
感染症拡大が「買物」にもたらした影響
この数か月で、「買物」に対する見方が変わった方は多いのではないでしょうか。Covid-19の感染拡大にともなう緊急事態宣言の発令以降、スーパーマーケット(以下、スーパー)など普段の食料品を購入する場の大切さや、買物が気分転換や運動に役立つことを実感した方は多いと思います。また、都心の百貨店の休業に寂しさを覚えた方も多いでしょう。
さらに、インターネットでの買物の割合が増えた方も多いと思います。決済手段の点でも、感染防止を意識し、現金にかわり電子決済(キャッシュレス決済)を使い始めた方や、その使用頻度を増やされた方も多いのではないでしょうか。
加速する「買物」を取り巻くDX
感染症拡大で、「買物」が変わり始めているようですが、特に大きな変化は、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の進展ではないでしょうか。買物の分野では、電子決済の導入や、オムニチャネルなど、これまでもDXは進展していましたが、感染症拡大は、DXをさらに加速させているようです。
たとえば、日本通信販売協会によれば、2020年6月の通信販の売上高は、前年同月に比べ、10.8%の増加していました(日本通信販売協会 /参照日2020年8月)。特に、食料品は40.0%増加、家庭用品は32.1%増加しており、消費者は、これまで実店舗で購入していた商品をオンライン購入に切り替えたことがうかがえます。
こうした動きは不可逆である可能性が高いと考えられます。スーパーのレジ周辺のビニールの仕切りなどは、終息後になくなりそうです。しかし、スーパーでの電子決済、インターネットでの購買習慣、インターネットによる来店前の商品検索などはどうでしょうか。新しい買物の利便性や経験にある程度満足した消費者は、アナログな買物習慣に戻るとは考えにくいでしょう。また、企業側もDXへの多大な投資を台無しにするような方向に梶を切り直すとは考えにくいです。ニューノーマルの世界を眺め、何が可逆的な変化で、何が不可逆的な変化なのか、よく考える必要があるでしょう。
本特集号では、このような長期的な視点に立ち、加速する情報技術の「買物世界」への応用と浸透が、今後、ショッパーの行動や、買物の在り方をどのように変えていくのかを考える手がかりを提供したいと考えています。以下、5つの特集論文を紹介します。