効率よく統合マーケティングを行うための分析手法とは?
続いて倉迫氏が、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)による、メディアプランニングの最適化について解説した。
統計モデルを用いた計測方法であるMMMは、テレビ・チラシ・雑誌などのオフラインメディアだけでなく、オンラインメディアについても同一の指標で判断する。ROI評価を施策に活かすことで、統合マーケティングで成果を挙げることができる。
続いて倉迫氏は、現在なぜMMMに注目が集まっているのかを説明。接触メディアや購買フロー、手段が複雑化し、どの施策がコンバージョンへ貢献したかが、追いづらくなっている。また、データポイントも複雑化し、さらにGDPRやITPなどのプライバシー規制が強化され、顧客ごとの計測が難しい。これらの課題を、MMMはクリアするのだ。
「MMMは、個人レベルのデータではなく、オフラインを含め全メディアの出稿量/施策の露出量データを基に分析します。ビューやクリックなどの指標ではなく、完全なる出稿量で分析するため、メディアを公平に評価できるのです」(倉迫氏)
MMMでは、様々な示唆が得られる。たとえば、最適なクリエイティブフォーマットやキャンペーン配信の方法。テレビとInstagramの相乗効果や、オフライン施策のオンライン売上への貢献度も追うことができ、ラストクリックに偏らない評価が可能だ。また、外部要因も数値化して分析するため、「コロナ禍で本当に売上に変化があったのか?」といった疑問も解消できる。
倉迫氏は、過去のMMM実施例としてネスレのフィードバックを紹介。「メディアごとにROIを可視化でき、売上の寄与が横並びに評価できた。メディアごとの最適な出稿ボリュームもわかり、次のメディアプランニングに活かせる」(ネスレ日本・村岡慎太郎⽒)と、満足度は高いという。
デジタル広告は予算が不足気味。追加投資でROI改善の可能性も
続いて、逢坂氏が再び登場。MMMのメタ分析として、ニールセンが提供する世界最大のマーケティングROIリポジトリ「ニールセン・コンパス」を利用した分析結果を報告した。
この分析は、不透明な時代におけるメディアの選定基準をテーマに、「効果を効率的かつ持続的に向上できるメディア/プラットフォームはどこか」「予算を投資することで伸びが期待できるのはどこか」の2点を明らかにすることを目指したものだ。
まず逢坂氏は、次のグラフを提示。それぞれのパーセンテージはMMM事例の中で、各媒体のROI(費用対効果)が1円以上だった割合を表す。たとえばテレビの場合、過去に行ったMMM事例のうち24%が、ROI1円以上だったことを意味する。
媒体ごとに比較すると、デジタルプラットフォームは安定的にROIが1円を上回っていることがわかる。さらにROI指数を見ると、Facebookなどのデジタルプラットフォームは平均的に高い傾向があり、広告費を投資した場合、安定して高いROIが期待できることがうかがえる。
続いて、次のグラフが提示された。
グラフのY軸とX軸の間に描かれた飽和カーブからは、媒体ごとの出稿量の適正範囲をチェックできる。適正範囲とは、その媒体が一番効率よく売上に貢献できる広告出稿量の範囲を意味し、ニールセン・コンパスによると、日本では45%のテレビの広告キャンペーンが適正範囲以上の出稿量となり、Facebook/Instagramの62%の広告キャンペーンが、適正範囲未満の結果が出ている。つまり、デジタル広告にはまだまだ投資を増やす余地がある。
「デジタルキャンペーンの多くは、出稿量が適正範囲を下回っており、投資を強化することで、ROIを向上できる余地があると考えられます」と、逢坂氏は分析結果をまとめた。