機能先行はNG。アプリ開発の軸はユーザーへの提供価値にあり
ユーザーの現状を知ったあとは、誰に届けるかを明確にするべく、ペルソナ/カスタマージャーニーマップを作成していく。
ペルソナは、プロダクトのターゲットにおける共通イメージをもつために作成する。「これがデザインや機能の方向性の軸にもつながっていきます」と染矢氏。
そのペルソナに対して、何をどのように提供していくかの道筋を立てるのがカスタマージャーニーマップだ。手順としては、アプリ利用前・利用中・利用後というフェーズに分け、それぞれに対応するシーンやユーザーの行動、思考および感情を明確にしていく。このときに重要なポイントは、「ユーザーへ提供する価値」についても明示しておくこと。染矢氏によると、ここまで踏み込めていないケースは少なくない。
たとえば、「コープこうべアプリ」のユーザーで、週1の宅配サービスを利用している主婦がいたとする。この主婦は、注文の締め切りを前に何を頼むかで悩んでいたり、考えるのが面倒だからと、いつもと同じ商品を頼むといった行動を取っていて、「他の人はどんな商品を買っているのか知りたい」という欲求をもっている。それに対して、コープこうべとして何を提供できるのか、価値ベースでできることを洗い出していくと、いつも購入している商品と組み合わせて使える食品やレシピの提案や、献立を考える助けになる機能を提供するなどのアイデアが生まれる。
「ユーザーに提供する価値ベースで開発に取り組むと、実装すべき機能の優先順位も見えてきて、意思決定もスムーズになります」と話す染矢氏。ユーザーへの提供価値が、アプリ開発の一つの軸になるという。
継続利用者が前年比180%に伸長した「コープこうべアプリ」
カスタマージャーニーマップを作成し、誰に何を届けるか明確になったあとで、コンセプトを策定。その際、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」を基に、「Why:なぜ」「How:どのように」「What:何を」の順で進めていく。
「コープこうべアプリ」の場合は、「協同・地域づくりをデジタルの活用でスケールさせていくために(Why)」「当時の時流に沿って、ソーシャルやシェアリングを活用して(How)」「生協の資源である宅配・店舗・コミュニティを生かす施策を行う(What)」と考えて立ち上げたコンセプトが、「現代版の『コープさん』を作る」だった。この「さん」という敬称を付けた呼び方は、コープこうべの利用者が親しみを込めて使っている言葉だ。そんなアナログのコミュニティをデジタルでも作ろうと考えた。
コンセプトを定めたあとは、その実現に向けたロードマップを策定していき、それに沿ってアプリをスケールさせていく。コープこうべの場合は、「供給金額の最大化+併用利用の促進」「運営参加率の向上」「職員と組合員の垣根がない地域づくり」の順に取り組み、利用規模を拡大していった。その結果、アプリのターゲットでもあり企業課題でもあった若年層ユーザーの利用は144%増加。継続利用者も前年比180%に伸び、ロイヤリティも3.7倍向上した。
染矢氏は取り組みを振り返り、成功要因として次の3つのポイントをあげる。
- カスタマーを明確にしたこと
- 強みを活かしたコンセプト設計
- ロードマップから逆算した開発プロセス
「LTVの最大化を実現するには、ベンダーとの取り組みのなかで、この3点を実施しているかが大事です」と染矢氏は言う。