クラウドソーシングで有望なアイデアを見つけるには?
実際にクラウドソーシングを活用し、製品開発に取り組まれている方の中には、ユーザーから得られたアイデアを絞り込む難しさや、その負担の大きさを実感されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。先ほど紹介した2011年の論文の著者でもあった静岡大学の本條晴一郎准教授が株式会社Insight Techの伊藤友博氏と共同で執筆した「自然言語処理技術を用いたクラウドソーシングアイデアの有望性予測―レシピ投稿サイトにおける探索的研究―(PDF)」では、大量のアイデアを自動的に評価する手法が提案されています。
ポイントとなるのは、アイデアの希少性です。論文中では、クラウドソーシングで得られるアイデアの有望さを検討する際には独創性の高さが重要であることと、独創性を判断する指標として希少性を活用できることが指摘されています。実際、クックパッドのデータを活用した分析からは、自然言語処理によって抽出された希少性の高いレシピが「つくれぽ」の多い有望なアイデアになりやすいことが明らかにされています。
クラウドソーシングによって集められた大量のアイデアを自動的に処理できるようになれば、クラウドソーシング活用の効率性が大幅に高まり、多くの企業でクラウドソーシングを活用できるようになるものと予想されます。今後の展開に期待が高まる論文かと思います。
「ギグ・エコノミー」による影響を展望する
マーケティング関連領域では、技術進化などの環境要因の変化により、新たな概念が数多く提唱されます。その中でも、「ギグ・エコノミー」は、今後の潮流を捉えていくうえで重要な概念の一つになりそうです。
千葉商科大学の大平進専任講師は、「ギグ・エコノミーが製品開発に及ぼす影響―新しい働き方がもたらすイノベーション創出の可能性―(PDF)」の中で、「プラットフォームを介して、単発の仕事を請け負う人たち」であるギグ・ワーカーの増加を指摘し、ギグ・エコノミーを「それに関連した経済活動」として位置づけています。論文の冒頭ではUber Eatsが引き合いに出されているのですが、最近の都市部の様子を考えれば、納得感のある人も多いのではないでしょうか。
本文中でも指摘されている通り、「ギグ・エコノミー」が製品開発に及ぼす影響は、十分に議論されているとは言えないのが現状のようです。その一方で、こうした早いタイミングでの学術的な議論の整理は、新たな概念を理解し、実務へと取り入れていくうえで、大いに参考になるかと思います。特に、この論文では類似概念であるシェアリング・エコノミーとの概念整理から議論が始められます。新たな概念を取り上げる際には、既存の概念との共通点や相違点を明らかにしないと議論が混乱しやすいのですが、大平専任講師による整理は、ギグ・エコノミーという考え方に初めて触れる方のみならず、既にご存じだった方の構造的な理解を促すという意味でも非常に有益なものであると考えられます。
以上、4つの論文を紹介してきましたが、いずれにおいても先進的な議論が進められていることを感じていただけたでしょうか。それぞれの論文を改めて読んでいただければ、この記事では紹介しきれなかったポイントやヒントも数多く発見していただけるものと思います。是非、ご一読ください。