アプリマネタイズへの影響
では、アプリマネタイズにはどのような影響が起こるのでしょうか。先述の通り、IDFAの使用制限によって広告ターゲティングやコンバージョン計測が制限されると、広告主のマーケティング施策が変化することが予測されます。コンバージョンが取りづらくなると、アドネットワークやDSPを主な収益源として利用しているアプリ媒体の収益は低下する恐れがあります。
Facebookが発表している開発者向けのニュースによると(※1)、広告のパーソナライズ化をしない場合、アプリの収益性は50%減少すると言います。アプリ業界内では、広告の収益性を保つための「AppTrackingTransparency framework」ダイアログを利用したIDFAオプトインの促進施策がいくつか意見交換されました。しかし、取得した個人情報の使用用途説明を行うこと自体は可能ですが、ユーザーにIDFAのオプトインをしてもらうためにアプリ内のインセンティブを付与したり、事前にカスタムダイアログを出してオプトインを訴求したりする施策はAppleのガイドラインで禁止とされており、IDFAのオプトインにアプリ媒体側が関与することは非常に困難です。
また、IDFAのオプトインが必要なのは媒体側のアプリだけではなく、広告主側のアプリも同様となるため、仮に媒体側がIDFAを100%取得できたとしても、広告主側のIDFA取得率50%の場合は、やはり精度が落ちてしまい収益の低下につながります(図表1)。

一方媒体側は、ユーザーにアプリを利用してもらう上で、ユーザーにとって興味関心がない広告を過多に配信せず、最適な広告体験を提供するためにIDFAのオプトイン訴求をしやすい面があります。ところが広告主側はユーザーにオプトインを促す理由が媒体側と比べて少ないため、どのようにオプトインを促すかという点についても大きな課題となっています。
2021年1月現在「AppTrackingTransparency framework」を実装しているアプリはまだ少なく、オプトイン訴求方法、オプトインの成功率に関する情報が少ないないため、オプトイン率を向上させる施策は現状着手しづらい状況です。現状を踏まえアプリ媒体はIDFA使用制限後、どのように収益を維持・向上させていくかを模索することが重要といえるでしょう。
IDFA使用制限後のマネタイズについての考え方
では、アプリ媒体は今後どのように広告収益低下への対策を行っていけば良いのでしょうか。ここからは、IDFA使用制限後においてアプリ媒体の収益を向上させるための考え方を紹介します。
IDFA使用制限による広告収益低下に対しては闇雲にいろいろな施策に手を出すのではなく、まずは「従来の広告マネタイズ最大化」と「新規売上創出」という2軸での整理で考えると良いでしょう(図表2)。

従来の広告マネタイズ最大化
まずは、広告から発生する売上を図表3のように分解することで売上を構成している要素(KPI)を把握し、自分のアプリで改善できそうなKPIを探してみましょう。

図表4は一般的なクリック課金バナー広告のKPIツリーですが、利用している広告フォーマットや広告課金形態によっては図の通りとは限りません(基本的には「数量×単価」で表すことができます)。

もちろん数量×単価のどちらも向上させることができれば一番良いですが、「Click単価(CPC)」については広告主側の条件で決まる要素が多いため、媒体側でこのKPIを改善させる難易度は高いです。一方、「Click数」や「impression」などのKPIは媒体側でコントロールが容易なため着手がしやすく、実現度・実施インパクトともに高いと考えられます。
アプリ内に新たに広告枠を設置できるところはないか、また広告掲載位置を改善できないか、あくまでもユーザー導線を大きく邪魔しない観点を心がけて、ABテストを行いながら実施すると良いでしょう。
また、KPIの改善で最も効果的なのは、自身のアプリと同ジャンルのアプリのKPIと相対比較をし、どのKPIに課題があるかを把握し、改善施策を行うことです。
こういった情報はなかなかアプリ媒体側で入手するのが難しいかもしれません。利用しているアドネットワークの担当者に積極的にアドバイスを求めたり、アプリ媒体担当者同士の横のつながりを作って情報交換をしたりすると、正確な改善施策を打つ助けとなります。
