デジタル領域3社でクラウドインテグレーションの強化へ
――電通デジタル、ISID、アイソバーでは、2021年1月にDDXGの設立を発表されました。その経緯を教えてください。
アイソバー・吉岡真氏(以下、吉岡):近年では、クライアントからの要望がより高度化、複雑化しており、クロスクラウドが求められる状況になりました。そうした中では、各社の得意領域を掛け合わせてサービスを提供し、クライアントにさらなる価値を提供できる体制が必要です。
吉岡:そこで今回、3社がこれまで以上に深く手を組むことで、大規模化するクラウドソリューションの構築・運用やデータ活用をより最適な形で提案し、企業のDX推進に向けたインテグレーション強化を支援することになりました。
ISID・中村成孝氏(以下、中村):現在、顧客から求められるスコープが広がり、マーケティングやEC、BIなどを含めたフルレンジで提案、構築するケースが多くなっています。個社ごとでは領域を限って提案・受注するケースが多いのですが、3社で連携することにより、領域を広げてバリューチェーン全体のインテグレーションが可能になります。
電通デジタル・越久村克士氏(以下、越久村):案件の大規模化、複雑化に加え、「顧客体験をどう作っていくべきか」という課題感もこれまで以上に表出してきました。また、クライアントの社員の働き方も変わってきています。我々各社とのお付き合いの中で求められていたサービスの範囲外にある課題が、クライアントの中でも顕在化してきている。それに対応することが我々の喫緊のミッションでした。
DDXGの設立とは別の取り組みですが、電通デジタルとアイソバーは2021年7月に合併し、新生電通デジタルとして活動します。アイソバーで培われてきた顧客体験(CX)領域のナレッジは、新生電通デジタルやDDXGにおいてさらに強化されます。
すれ違うマーケとITの思惑をアジャストする
――現在よく耳にされる、DX推進の阻害要因はどのようなものですか。
中村:ひとつは、マーケティング部門とIT部門とのコミュニケーションにおける齟齬です。まず、共通言語が違うので言葉が通じない。でも実は単なる言葉の違いではなく、それぞれの視点が異なるために話が通じていないことがあります。
中村:マーケティング部門はビジネス的な成功がゴールなので高速でPDCA を回したい。スピード感やコストを考えるとトライアルで作った仕組みをそのまま本番運用したい。一方でIT部門は、長く安定して運用できることを重視しており、パフォーマンスやセキュリティといった、いわゆる「非機能」にしっかり対応したいため、早急な本運用を避けたい。DXを推進するには、両者の思惑をアジャストすることが重要です。その橋渡しは、我々だからこそ担える役割だと思っています。
「そのDXに意味があるのか」を検証する
吉岡:弊社では、「DX推進や新たなシステムの構築に、本当に意味があるのだろうか」という“そもそも論”から相談をされることもありますね。そのため、仮説検証といったディスカバーフェーズを大切にし、戦略部分からクライアントと一緒に考えます。
特にマーケティング視点では、上層部から新ツール導入ありきで話を進められたものの、それがROIと合わないといった悩みを聞きます。そうしたケースでROIの算出を仮説ベースでお手伝いできるのは我々の強みです。
越久村:「DX推進を目標に新組織を作り、横断型プロジェクトが走っているものの、具体的な進め方がわからない」という声も聞きます。組織が大きくなるほどハブ役としてプロジェクトを推進していく人材が求められますよね。でもそこが不足していることが多い。
また、マーケティング面の一番の課題は、データをマーケティング部隊が使いやすい状態にすることですね。会社が100社あれば100通りのDXがあります。我々はビジネス課題から工程を認識し、施策を俯瞰して再構築するお手伝いをします。
広告領域の強みもそのままにDXの全領域をカバー
――今回のDDXGのサービス領域は、従来のシステム構築支援やコンサルティングとはどのように違うのでしょうか。
中村:3社がそれぞれの得意領域で互いを補い合うことで、DXに関わる領域全般をカバーしています。
中村:特徴的なのは、顧客目線、顧客体験目線のアプローチからスタートするところ。コンセプト作りからカスタマージャーニー設定、プロトタイプ作り、そして構築する仕組みの価値検証まで行います。
そのほか支援していて重要に感じるのは、見落としがちな裏側のオペレーションですね。顧客体験を突き詰めるのは重要ですが、その裏側に「どんな業務がどんな分量であるのか」を意識せずに進んでしまうと、運用に入ってから痛い目に合います。顧客体験が氷山の一角だとすると、裏側の業務は海中の巨大な氷塊のイメージ。そこまでカバーできるのも3社協業の利点です。
目指すサービスモデルがOne to Oneですと、ネームドユーザーとのコンタクトやリテンションが基軸となります。一方で、新規顧客も開拓したいしアノニマスからの連続性も欲しい。そのために必要な広告領域もスコープに入れられるのは我々の大きな強みですね。
越久村:日本ではコンサルティングファームが広告領域の機能を持っていないことが多いです。電通デジタルの中には大きなデジタル広告の部門があり、長年の支援経験があります。他社にはない範囲でソリューションをカバーしています。
吉岡:アイソバーは自社メディア、自社コンテンツに注力していたので、今回、電通デジタルと合併してペイドメディアまでカバー領域が広げられるのはとても大きなメリットです。電通グループとして蓄積されてきた広告領域の強みを活かしつつ、合併といった構造改革を経ることでDX、CX のサポートの強化も進められると考えています。
顧客体験の向上とともに内部の効率化を推進
――支援内容について、具体的な事例を教えていただけますか。
吉岡:たとえばアパレル業界は今、直販に注力しています。ただ、既存のコマースプラットフォームで提供できるのは「購入体験」であり、「購買の楽しさ」ではないのが実情です。
そこで、コマース基盤だけではなく、その上にCMS を活用して自由度の高い表現を施し、顧客体験を向上するといった取り組みを行っています。エンドユーザーが欲しいものを具体的に見たり感じたりできる仕組みを作りました。
越久村:金融業界の事例では、スマホ完結型になった顧客の行動様式における変化への対応と、銀行内の体制効率化および最適配置が課題になっていました。
そこで、スマホ、Web、支店の窓口、コールセンターなど多様化する顧客接点において、それぞれで伝える内容を統一し、顧客行動データも整理。顧客個人に適切な提案ができる設計をしてクラウドに統合、顧客体験を最適化しました。
さらに内部では、顧客資産の多寡も含めてセグメントを作り、ターゲティング精度を向上。また、顧客の抱える課題に沿ってオンオフの各チャネルを再定義できたことで、各顧客へのコミュニケーションを最適化でき、人員と施策の効率化につながりました。
中村:メーカーの事例では、販売店や代理店経由のビジネスモデルが多く、自社に顧客情報がないことが課題になっていました。
解決策として直販に舵を切る方法もありますが、ビジネスモデルを変えない方法として代理店にメリットがある仕組みをメーカーが作ることも有効です。例えば、情報発信を通じてファンを作る顧客プラットフォームをメーカーが用意して、そこでコミュニティを作ります。そして購買自体は代理店に誘導します。成功のカギは、どのようなコンテンツを作るか。
DDXGでは企画段階からクライアントのチームに参加し、より実現性のある形を模索することで、クライアントがコンテンツやサービスに注力できるような支援が可能です。
――なるほど。クライアントによっては、既存のシステムとの連携や簡便性を理由に、求めるクラウドソリューションが異なるかと思いますが、DDXGではどのようなソリューションをお取り扱いでしょうか。
越久村:大枠でいえば、CRM、MA、オウンドCMS、 データ管理系のCDPや、顧客データを取得・分析するためのBIツール、Webアナリティクス、また最近ではECプラットフォームのソリューションも扱っており、顧客体験のDXに求められる領域は全般的にカバーできているかと思います。また、単一領域に特化して強い製品もありますので、クライアントの状況によって、これらを組み合わせ提案しています。
ナレッジを共有し、より一層の体制強化・サービス拡充へ
――最後に、 DDXG における今後の展望を教えてください。
吉岡:DDXGの3社は各社があらゆるソリューションやプラットフォームに対応していますし、そのどれも経験値が高いです。
アイソバーは、電通デジタルと合併し、同じ運営になることでより一層明るい未来が広がっていると感じています。単純なリソースのシェアだけでなく、ナレッジも共有して自分たちのサービス領域をどんどん拡大できることが、今後の体制強化につながっていくと思っています。
また、体制面に加えて、新しいサービスをより多く作っていけることにも期待しています。電通グループとしても、DX領域やその採用活動にもきちんと布石を打ち、良い人材を確保していきたいですね。
中村:ナレッジのシェアが非常に有効な世界なので、自分たちからも積極的にナレッジを提供し、また他2社の知見をうまく吸収して、3社合同で独自のメソドロジーやサービスを開発していきたいですね。
越久村:DDXGとしてひとつのブランド、“館”を作れたので、そこに魂を入れていきたいです。ソリューション提供やオファリングをして、様々な領域でDDXGならではの価値をきちんと提供していきます。
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