コロナ禍で社内に広がった、ファンとの絆とその価値
山名:コロナ禍に見舞われた2020年、緊急事態宣言下の自粛期間は、私たちから「飛行機に乗ってください」と言いづらい苦しい期間が続きました。もちろん、リアルイベントも開催できなくなりました。でも、日常生活から「旅」が消えてつらい思いをしていたのはtrico会員のみなさんも同じでした。
そこで昨年は、幾つかのオンライン座談会を開催しました。座談会では、参加者からは「ワーケーション」や「リモートトリップ」など、新しい旅のカタチについて本当に多くのアイデアや励ましの声が寄せられました。会員のみなさんに楽しんで頂いたのはもちろん、ボランティアで参加したJALグループ社員達は、お客さまとの接点がなくなってつらい時期だったので、とてもチカラを頂いたようです。
2021年2月には「trico2周年記念オンラインイベント」を開催しました。前半、後半、懇親会も合わせ正味約6時間のイベントでしたが、100名を超える会員のみなさんと対話することができました。それにこのイベントには、これまでで最多のJALグループ社員がボランティアで参加しました。

山名:オンライン開催ならではの効果もあり、イベントは今後もリアルとオンライン組み合わせて活用していく予定です。
コミュニティの価値をJALの「武器」とするためには
水野:社内でtricoはどのように評価されていますか?
山名:本社を中心に社内の認知も高まっています。マーケティングを担当する各組織と定例会で状況を共有し、新しい商品・サービスの共創の場としてや傾聴の場としても期待されています。
また、コミュニティとリアルの現場が一体となって体験価値を高めることができると考えています。ただ、空港や機内などいわゆるお客さまとリアルに接する現場部門での認知度がまだ高くないため、trico会員が飛行機の搭乗時にCAにtricoに関する話題を投げかけても通じなかったという意見が座談会でありました。
こういった取りこぼしがないよう、コロナ禍の現在、社内の教育コンテンツ制作にも取り組んでいます。
水野:このコロナ禍で、求められるマーケティング効果や予算の変化はなかったのでしょうか?
山名:このような状況もあり会社の業績に応じて、求められる成果は厳しくなっています。だからこそ、tricoを有効に活用できていることを説明することが重要だと考えています。
また、予算の問題はどうしても出てきます。しかし、予算は使ったとしても、決算に影響がでないように、視点を変えて何かしら工夫するようにしています。たとえば、グループ内の他社のリソースを活用すればグループ内で還流しますし、賞品のマイルも、乗る予定がなかった方が空席のある便に乗ってくれたとしたら、さほどのコストの持ち出しにはなりません。
他にも、社内の様々な部署に声をかけて交渉し、倉庫に眠っているグッズをイベントのお土産にしたり、地方空港で現地集合のイベントを企画したり、有料で地方食材のライブクッキングイベントを行ってみたりもしました。
理解を深めてもらうためには、社内を「巻き込む」ことが大切です。どんな形でも参加してもらえば、お客さまの声に触れてコミュニティの価値を知るきっかけとなります。スモールステップで自分たちのできることを手作りで運営していますが、逆にそれがtrico会員やJALグループ社員の共感につながることもあると感じています。
水野:tricoの今後の展開を教えてください。
山名:tricoは「旅は好きだけど、航空会社に特にこだわりはない」「JALは好きだけど、旅はそうでもない」のように、多様な価値観をもった人たちが存在します。だからこそ、tricoとJALの他のコミュニケーションとを組み合わせ、全体の効果を高めるような取り組みを展開したいと思っています。
水野:今後も活発なコミュニティが続くことを期待します。今日は貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
対談後記
企業コミュニティにおけるUGCの生成は重要なテーマです。tricoはそのUGCを生み出すための「活性化術」が巧みでした。「旅」というテーマ選定や、インセンティブとしてのマイルの活用、ポイントやバッジといった会員のモチベーションアップ策など緻密な設計が素晴らしく、多くの企業コミュニティ運営のモデルになるでしょう。コロナ禍のオンラインで展開した実績を活かし、アフターコロナとなった折にはリアルな旅でtricoのおもてなしが、大空に飛び立つことを楽しみにしています。