企業コミュニティ立ち上げの背景にあった課題
株式会社日本航空 広報部
Webコミュニケーショングループ グループ長 山名敏雄氏
1990年日本航空へ入社、IT企画部門、ECサイト企画運営部門を経て現職へ。統括する広報部Webコミュニケーショングループは企業コミュニティ運営の他、SNSを活用した各種コミュニケーション施策の企画等を担当する。
水野:さっそく、いろんな方の素敵な旅の写真や雄大な飛行機の写真が印象的な「JAL旅のコミュニティ trico」について教えてください。
山名:tricoは、旅やJALに関する体験をみんなで分かち合うコミュニティです。特に、口コミの文章だけでは伝えきれない新しい発見や、素敵な風景、おもしろい場所などを、写真を通じてシェアして楽しんでもらう場を目指しています。
JALの旅コミュニティ trico(トリコ)
旅先の思い出やJALに乗った話題をシェアする場所として、2019年2月オープン。会員数は1.3万人(2021年3月現在)、月間投稿数4,000件を超える活発なコミュニティ。
山名:そのため、トップページには、その魅力をダイレクトに伝えるために、メニューとして展開されている「発見レポ」「JALトーク」に投稿されたイメージ画像が魅力的に映るようにピックアップして表示しています。また、会員から発信される様々な発見や体験をベースに、JALから共感コメントやイベントの場などを設けて交流を促していることも特徴ですね。
水野:trico立ち上げの背景にはどんなマーケティング課題があったのでしょうか?
山名:trico立ち上げを検討していた2016年は、社外への発信はSNSでのコミュニケーションが主流で、中心的だったJALの公式Facebookも100万フォロワーを抱えていました。ただ、SNSは企業主体で情報を発信するには効果的ですが、一方的なコミュニケーションに留まるという課題がありました。
そこで、お客さま同士を含めた双方向コミュニケーションを通じて、JALへの共感と信頼を生み出す必要があると思い、企業コミュニティに注目しました。
コミュニティだからこその、UGCを活かしたコミュニケーション
山名:コミュニティ運営の目的として、会員の年数回の楽しみに計画される旅行がJALに乗って「特別な旅行」になり、次の旅行もまたJALを選択してもらえるようになることと定めました。
背景には、飛行機のヘビーユーザー層は、ビジネス利用が多く、マイレージプログラムの観点からも、ブランドスイッチが起こりにくいといった航空業界独特の構造があり、搭乗頻度でファンを定義するのが難しかったことがあります。
水野:よく言われる、「上位数パーセントの顧客が売上の多くを占める、その数パーセントの顧客を手厚くもてなす」という戦略とは、組み立て方が異なるわけですね。
山名:はい。そのため、私たちは、よく搭乗されるビジネス層だけではなく、ライトユーザーもファンとして考えました。
そして、JALが一方的に発信するのではなく、実際に体験したお客さま自身の言葉で語られ、相互にシェアされることで、旅の魅力がさらに高まるという考えを大事にしています。そのため、tricoでは、ご自分の旅の感動を発信することで旅の魅力が共感されるわけです。さらに、そこにJALの飛行機や客室乗務員・空港関係者など「人のおもてなし」が加わり、JALへの信頼感も高めることができると感じています。