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自分の心を使いながら、お客様の心にアクセスする。鹿毛さんと中村さんが明かす「これが、インサイト。」


自分の心を使いながら、インサイトにたどり着くには

中村:では、自分の心の洞察から、どうやってインサイトにたどり着くのでしょうか?

鹿毛:自分のなかにあったとしても、お客様のなかになかったら、それは独りよがりです。だから、その洞察をもって、お客様の心に周波数を合わせようとしてみる。そうして「お客様の心のなかにもあるな」というとき、心と心がビビビッと共振するんです。すると心に複数形のsがついて、“心ズ”になる

中村:おもしろい!

鹿毛:これが、インサイト。……ここまでは本で説明していません。でも、そう定義していなくても、きっと中村さんも同じことをしていますよね?

中村:たしかに、そうですね。ちなみに私が「インサイトとは何か」をつかんだきっかけは、28歳くらいのとき、シャンプーのグループインタビューに元カノが来たことです(※中村氏のnote)。

鹿毛:なんと(笑)。全部わかったでしょ? 彼女が何を選ぶのか、それはなぜなのか。

中村:はい(笑)。言うことがわかる以上に、言うことを予測できるようになるのが「インサイトをつかめた」状態だとよくわかりました。そのため、私は「肌感」という言い方をしていますが、「心の周波数」も同じですね。

雪印乳業のお詫び広告と、糸井重里さんのこと

中村:そして、これは鹿毛さんが心の闇を注視されていることにも通じるのかもしれませんが、今日どうしてもお聞きしたかった。本には雪印事件(※)を経て、糸井重里さんからのメールに救われたというお話がありましたが、何にそこまで心を打たれたのか、ということです。

(※)雪印事件:2000年、近畿地方を中心に雪印乳業の製品による集団食中毒事件、2002年には子会社による牛肉偽装事件が発生。事後の対応や企業体質が問われる事態となり、当時同社に勤めていた鹿毛氏を含む社内有志7名が「雪印体質を変革する会」を発足。社員一同による謝罪広告の出稿を経営に掛け合い全国紙に掲載するなど、信頼回復のために活動した。

鹿毛:当時、お客様の信頼を失う出来事が続いたことで、雪印という企業の存在そのものが問われていました。2002年には社員一同の名前で謝罪広告を出したのですが、もともと営業畑にいたので、これが僕の初めての広告になりました。

(謝罪広告の文面の一部)

私たちが犯してきた、悪質な行為の数々。本当に申し訳ございません。企業そのものに人格があるならば、雪印は、感謝という言葉を持っていなかった、といえます。

(中略)「自分さえ良ければ(助かれば)いい」「すべて他人事。すべて他人のせいにする」そしてこれこそが、社員ひとりひとりの中に、多かれ少なかれ巣くっている悪しき「雪印らしさ」です。

(中略)私たちは、私たちのこれからを見ていてほしいと、心から思っております。

 あのとき、言えないこともたくさんありましたし、言える事実情報を並べればいいのかという葛藤もありました。事実を言うこと、つまり機能訴求することが人の心に届くのかというと、そうではないと僕は体感していました。

 お詫びというのは、相手が受け止め、許して初めて成立するものです。相手のことを考えないのはただのパフォーマンスです。それを考えると、あの時点では心からお詫びをして、心で理解していただくことしかできなかった。

中村:NHKスペシャルの報道取材にも、矢面に立っておられました。

鹿毛:そう。これもあまり言えないけれど、社内でも矢面に立っていました。でも、社員もそれぞれすごくしんどい思いをしていたんです。車に石を投げられたり、お子さんがいじめに遭ったりね。本当に、人間のドロドロしたものを見てしまった時期でした。

 そんな折、糸井さんが「ほぼ日刊イトイ新聞」の1日で消えてしまうコラム「今日のダーリン」に、報道を受けての感想を書かれていたと誰かが教えてくれました。僕は以前から糸井さんのファンだったので、厳しい言葉であっても励みにさせてもらえたらと、サイト宛にご提供をお願いしたところ、驚いたことにご本人から長いメールをいただいたんです。

 糸井さんのメッセージの何が僕の心を捉えたか。もう、まるで、僕らの隣で一部始終を見ていた、何なら心のなかまで見通しているかのような洞察がそこにはありました。もしご自分が今の雪印から仕事を打診されたら、何をするか。これからの雪印の再生に何が大事か。そして、僕を思いやる言葉。僕はメールを読みながら、首を垂れるしかなかった。

 そして自分を恥じました。ここに至るまでも、お客様のご自宅にお詫びにあがり続けながら、僕はMBAを取って横文字で論理的にビジネスをやった気になっていたことを恥ずかしく思っていましたが、糸井さんからのメールは決定的だった。これが本当の、人としての心をともなった仕事の仕方なのだと、僕の心に刻み込まれました

 だからね。デジタル時代に育っている若い人にどこまで伝わるかわからないけれど、データばかり重視してお客様の心が見えていないとか、その程度の話ではないんだよね。僕はこの時点で雪印を離れることは決めていたから、次は雪印でできなかったことをやろうと思っていた。それは糸井さんのように、心で会話する人物になること。仕事を通して、お客様と心を通わせられるようになろうと思ったんです

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エステーのCMも、心で会話して生まれた

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/17 10:24 https://markezine.jp/article/detail/36504

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