価値づくりの機会は購買時点だけにあるのか、その前後にもあるのか
藤川:それから2点目です。レンズ1では、企業が価値を生産し、顧客は価値を消費する存在ととらえます。
つまり、企業の活動を通じて、製品に価値が埋め込まれ、顧客に販売する時点で価値が最大化すると考えます。企業にとっても顧客にとっても、価値は購買時点において最大であり、その使用段階においては企業がつくった価値を顧客が消費していく、という前提になっています。

藤川:対してレンズ2では、販売・購買時点で価値づくりは終わらないと考えます。
価値づくりは顧客の手に商品が渡った後もずっと続いていて、顧客がその商品を使っていく過程においてこそ、顧客が実感する価値(使用価値)がつくられていると考えます。
これは文脈価値という言い方をすることもあります。つまり、顧客がその場その瞬間において実感している価値を意味します。サービス・ドミナント・ロジックの根底には、価値は顧客がいて初めてつくられるという考え方があります。
そうすると、顧客の役割も根本的に変わりますね。これが3点目です。レンズ2では顧客の行動こそが、顧客が最終的に享受する価値をつくっていく、すなわち顧客は価値の共創者ととらえるのです。
顧客は「消費者」ではなく「価値を共創するパートナー」
高山:少し整理をすると、サービス・ドミナント・ロジックの重要な観点は、サービスをどう定義するかと、価値をつくる主体が企業だけでなく顧客へも広がり、企業と顧客の関係性が変わる。顧客は企業がつくった価値の消費者ではなく、企業と一緒に価値を共創するパートナーであるということですね。
藤川:そうですね。

ブランドソリューショングループ マネージャー 高山達哉氏
高山:たとえば弊社では約5,000円のオリジナルグラスを販売しています。
同じグラスであっても「喉が渇いて水が飲みたいからとりあえずこのグラスでいいか」と飲むのと、「金曜日の夜に、一週間頑張った自分にお疲れ様でした」という意味を込めて特別な時間にお酒を飲むグラスでは、価値は異なるでしょう。僕たちはそのグラスでは後者の価値を提案したいと思っていますが、利用される方が価値をどうとらえるかが要点になるので、顧客と価値を共創していると考えています。
藤川:顧客が実際にグラスを使っていく過程において、顧客の行動があるわけですよね。それがあって初めて価値が一緒につくられていくと考えます。
そのグラスがもっている機能や性能によって、そのグラスの価値が一元的に決まるわけではありません。この文脈価値や使用価値をどのようにつくっていくのか、その価値づくりのプロセスを考えながら、その事業のデザインをしていくことが大切です。
高山:旧来の考え方として、「売って終わり」という感覚をおもちのメーカーの方もいらっしゃるかもしれません。ですが顧客にとっては、購入した後から、価値づくりが始まるという認識をもつことが重要なポイントなのですね。
藤川:顧客にとってはむしろあたりまえで、以前からずっと、「自分にとっての価値は購入してから生まれる」と認識し、行動してきた、と考えてみるとどうでしょう。
商品を提供する企業側は、マーケティングにおいては自分たちをその主体や主語ととらえ、価値づくりについては販売時点で一方的に終わらせてしまっていた可能性があります。販売時点より先の段階では価値づくりが行われないという前提をおいてしまうと、その先で行う企業活動はおしなべてコストセンターとしてとらえられることになりがちです。
しかし知らず知らずのうちにレンズ1をかけてしまっていることに気づいてそれを外し、レンズ2で同じ事業や活動を見つめなおしてみると、実は販売後にも価値づくりの様々な機会があることに気づきます。さらに価値共創にとどまらず、価値獲得、つまり課金機会も生まれますね。
高山:だからこそ、購入された後にもしっかりお客様とつながり続け、価値づくりを継続していくことが重要な観点なのですね。