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イベントレポート

コモディティ化を乗り越える一手となるか?――サービス・ドミナント・ロジック

サービス・ドミナント・ロジックを実践するには

高山:このサービス・ドミナント・ロジックの考え方を実践してみたいと思いながらも、なかなか踏み出せない課題や障壁の原因は何でしょうか。

藤川:まずはマインドセットなのですが、一足飛びには変えられないところがあります。マインドセットを変えるということがご自身ではできても、周りの仲間が応じてくれるか、顧客に参画してもらえるか。組織の中にいる人だけでなく、組織の外にいる顧客や関係者を巻き込むため、企業変革や産業変革をともないます。

高山:そうなんですね。

藤川:先ほど価値共創にとどまらず価値獲得の機会も生みだしうるという話をしました。レンズ1からレンズ2にレンズをかけ替えると、顧客に実感してもらう価値の内容や、それに対する課金の方法を、交換価値をベースにするのか使用価値をベースにするのかという選択肢が出てきます。

藤川:レンズ1をかけていると上記の図にある左下、すなわち、顧客に実感してもらう価値も課金の対象とする価値も交換価値という「交換価値×交換価値」のセルの中だけで価値づくりを考えざるをえなくなります。

それに対して、レンズ2にかけ替えると、顧客に実感してもらう価値は使用価値、課金の対象としての価値は交換価値という「使用価値×交換価値」の右下のセルや、「使用価値×使用価値」の右上のセルを目指す可能性が出てくるわけです。

価値づくりを、交換価値と使用価値の組み合わせで考える

藤川:わかりやすい例として、富士フイルムビジネスイノベーション(旧・富士ゼロックス)の事例を紹介しましょう。

 かつてコピー機の機能や性能など、交換価値をベースに差別化を図ろうとした同社は、早くも1990年代には「ザ・ドキュメント・カンパニー」宣言をしました。

「私たちはドキュメントカンパニーであり、顧客組織において文書がどのように作成され、管理されていくのか、それを支援する企業である」と謳ったわけです。コピー機は無料で置かせてください、それを使ってどのように文書をつくり、管理したのかが把握できるので、そこに課金させてください、という形をとることで、「使用価値×使用価値」の右上のセルへの移動を実現しました。

高山:なるほど。

藤川:しかしこれを目指してもうまく行かないことも多いです。小松製作所の建設現場稼働管理システムKOMTORAXは当初、オプションで課金する形式をとろうとしていました。つまり使用価値を認めていただいて使用価値で課金しようとしたわけです。しかし顧客である建設会社の中で導入に至った企業は1社もありませんでした。

 このように顧客としても自分にとってどれだけの価値があるのか、参画してみないとわからない、ということがあるのが価値共創の特徴でもあります。そうすると事業や活動の投資意思決定をどのように行うのか、その業績評価の仕組みはどうするのか、抜本的な組織変革を迫られることが多くなります。

高山:それで小松製作所さんはこの状況をどう打破したのでしょうか。

藤川:当時の社長で今は同社の顧問になってらっしゃる坂根さんの英断で、KOMTRAXを無料でつけるという決定をされました。それによってKOMTRAXのついた同社製品が世界中で稼働するネットワークが広がり、様々なデータが上がってくる中で色々なサービスを生みだしていかれたわけです。

 その後、顧客には建設現場において製品の使用価値を実感していただく中で、製品の値上げ、すなわち交換価値への課金に成功しました。

 左下(交換価値×交換価値)から右上(使用価値×使用価値)にいきなり行こうとするよりも、いったん右下(使用価値×交換価値)に移行し、使用価値を実感していただいたうえで、交換価値への課金、つまり値上げをしたわけです。

 そして最近では、鉱山会社に対して、機械の交換価値に課金するのではなく、採掘現場の作業状況に対する様々なアドバイスを通じて生産性向上やコスト削減などの使用価値に対して課金する方式を導入しています。つまり左下(交換価値×交換価値)から右下(使用価値×交換価値)に移行した後、右下から右上(使用価値×使用価値)を目指しているといえます。

高山:現場のレベルでサービス・ドミナント・ロジックを実践する場合は、小さく試して顧客に実感していただき育てていくことが大事なのですね。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

齋藤 ゆう(編集部)(サイトウ ユウ)

大学卒業後、広告代理店に入社しマーケターに。その後、事業会社に転職。金融・美容分野のマーケティング・企画・運営・セールスに携わる。2020年、翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/08/06 09:30 https://markezine.jp/article/detail/36847

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