音声に見出すブランディング手法としての価値
今回紹介する書籍は『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』。著者はVoicyのCEO・緒方憲太郎氏です。緒方氏は、会計士のキャリアを経ていくつかの会社を起業したのち、2016年に音声プラットフォームの開発・運営を行うVoicyを創業した人物。現在はCEOの傍ら、ビジネスデザイナーとして10社以上のベンチャー企業で顧問や役員を務め、事業戦略・サービス設計・PRブランディングなどを手掛けています。
本書では、早くから「ボイステック」に可能性を感じ、その発展を支えてきた緒方氏が、音声市場勃興の背景を紐解いた上で、ボイステックの活用ポイントをブランディングの観点から解説しています。
一口にボイステックと言っても、その種類は様々です。本書ではVoicyのような配受信サービスだけでなく、「Siri」や「Alexa」のような音声アシスタント、それらを搭載したスマートスピーカーなど、ソフト/ハードを問わず、ボイステックと定義しています。
デバイスの普及により、ボイステックをユーザーとして利用するシーンは想像できるものの、企業がマーケティングに活用するイメージは多くの人にとってまだ不鮮明に思えます。ブランディング手法としての音声には、一体どれほどの価値があるのでしょうか。
音声は嫌われにくく、集中してもらいやすい
緒方氏によると、インターフェースは生活者の「できるだけ情報を楽に得て、生活を豊かにしたい」という欲求に合わせて進化を遂げてきたと言います。印刷が誕生し、ラジオ・テレビを通じて情報が自動的に届く時代へ。PCによって自分が求めるありとあらゆる情報を入手できるようになり、スマートフォンで情報入手の手軽さが飛躍的に上がった一連の進化を踏まえ、「画面に縛られることのない音声は、楽に情報を得る究極の形」だと語っています。
緒方氏は、「日本国民全体での、睡眠を除いた行動時間のうち、“ながら聴き”が可能な時間をざっと計算してみると、1週間で計約8.9億時間にもなる」と述べています。一方、テレビや動画など「目」のメディアが競合している時間は、1週間で計約2.5億時間であることから、「耳」の市場は「目」と比べて3倍以上の可処分時間の「在庫」が存在するブルーオーシャンだと言うのです。
また緒方氏は、音声活用のメリットとして「本人性」と「ブランド伝達強度」を挙げています。加工や代替の余地が少ない音声は、感情・心の動き・人となりが伝わりやすいパーソナルなメディアであるため、ファンを集めやすいと解説。また、視覚情報がない分、受け手が発信内容に集中しやすく、「インテル入ってる」や「明治ブルガリアヨーグルト」などのキャッチーなサウンドロゴは嫌われにくい傾向があるとも述べています。
本書には緒方氏のほかに、音声広告プランニングを専門とするオトナルや、グループ通話ソリューションを提供するBONX、音声合成技術を活用した声のプラットフォームを運営するコエステなど、ボイステックスタートアップのキーマンが登場。それぞれの立場から多角的な知見が共有されるので、音声の価値を体系的に理解することができます。
特に、オトナルの八木氏と緒方氏が対談する音声広告のパートからは、マーケターが具体的な施策として音声を活用する際のポイントを学ぶことができます。ブランディングの打ち手に悩む方や、顧客の好意や共感を醸成したいと考える方は、一読してみてはいかがでしょうか。
MarkeZine編集部も2021年7月にVoicy上で公式チャンネルを開設し、最新ニュースや取材記事のポイントを毎朝声でお届けしています。本書を読み、「音声×マーケティング」に興味を持たれた方は、ぜひチェックしてみてください。