ウェビナーは「台本なし」で偶発性を重視
――ウェビナーのコンテンツについて、もう少しおうかがいします。私も先日ウェビナーを視聴したのですが、「学びがある」「エンタメ性もある」「ブランドの提供価値・社風を伝える」の3要素がコンテンツに詰まっているように思いました。どのような考えのもと、企画・運営をされているのか教えてください。
ありがとうございます(笑)。そのような3軸で整理したことがなかったので新鮮です。「学びがある」これは当然のことで、最低限達成しなければならない点だと思っています。貴重な1時間をいただいているので自社のマーケティング活動に活かせる「お土産ネタ」を1つでも持ち帰っていただきたい、という思いがあります。自社セミナーにて週替わりゲストを迎えるスタイルも、私自身が「アプリという単一ソリューションだけでは、企業課題は解決しない」と思っているからです。
「エンタメ性」については、本来ビジネスセミナーにはなくても良いのかもしれませんが、「なんだか楽しそう」という空気を醸成することで、口コミが生まれ、伝播することを期待している部分もあります。ちなみに当社のウェビナーに「進行台本」はありません。基本的な「型」はチームで共有していますが、毎回のシナリオは、各担当者の頭の中だけにある、という状況です。「台本がない」ということ自体、ある意味ウェビナーの基本形を破っているので、それが「エンタメ性」を感じていただける要因になっているのかもしれません。元々私が台本を用意しないタイプだったこともあるのですが、一人の視聴者として、台本を読み上げるウェビナーでは偶発性が感じられないとも思っていました。各スタッフはそれぞれ工夫して、「台本なし」のやり方を身に付けてくれました。
「企業の提供価値・社風を伝える」。こちらも、表立って訴求はしていませんが重視しています。プロダクトやサービスの機能価値だけで選ばれることばかりではありません。「なんだか良さそう」というポジティブなイメージを持っていただくことは、今後のBtoBマーケティングに必要な要素とも思っています。契約後、末永いお付き合いとなっていくときのはじめのタッチポイントですから、「初対面の印象」は重視したいですよね。
――ウェビナー以外の顧客接点との連続性についてはいかがですか。認知から比較・検討、契約、利用と進んでいくプロセスの中で、ブランドの一貫性を維持するために工夫していることがあれば教えてください。
冒頭に紹介した「Mobile Tech For All」の精神は、どのフェーズでも、全組織・スタッフで意識している部分です。これは、200名規模の企業となった今でも、経営サイドから定期的なメッセージが発信されていることが効いている部分かと思います。また当社では、毎週月曜の「全社スタッフ参加の朝会」と月1の「締め会」を実施していますが、そのような場でも、DNAのようなものが伝わっているように思います。
顧客とその周囲に同心円状のコミュニティを作る
――最後に、今後の展望をおうかがいします。特集テーマ「ブランドの魅力が伝わる、戦略的な顧客接点」に照らして、今後注力していきたいポイントがあれば、教えてください。
今回のテーマに「戦略的」とありますが、私たちとしては、顧客や業界と何かを争っているつもりはなく、顧客のために、顧客とその周囲に同心円状の輪・コミュニティを形成するようなイメージを持っています。「囲い込み」や「刈り取り」という言葉を意図的に私が使わないようにしているのも、「自身がその対象だったら?」ということをシンプルにイメージしているからです(誰も囲い込まれたり、刈り取られたりされたくないはずですよね)。
確かに経済活動なので「いかにして競合に勝つか」という視点もありますが、同時に「コミュニケーション対象となるお客様にどのように映るか、伝わっているのか?」を想像するようにしています。
前述した代官山でのPOP-UPストアなどは、BtoBマーケティングにおける労働生産性や効率性だけを追求した場合は、選択されない手段・打ち手かと思います。しかし、私たちが伝えたいことを伝えるための手段として、最適なコミュニケーションだと思い実施しました。結果として、来場者やウェビナー視聴者、また社内からもポジティブな声をいただきました。ただし、また来年、同様の施策を行うか、という点においては、当然未知数です。メッセージを伝えていくべき相手は、常に変わっていきますし、対象が同じであっても、HOWの部分は、常にその時点で最適な手段を選ぶべきだと思っています。
