よくあるマーケティング課題とPRにできること
そもそも、企業はどういったニーズでPRを検討するのでしょうか。ここでは、特にSaaS事業においてよくあるマーケティング課題と、PRが果たせる役割を見ていきます。
課題(1)顕在ニーズを持つリードが枯渇する
新規商談を作っていくにあたり、マーケターはローワーファネル(ファネルの下部)にあたる、顕在ニーズを持つ層に対して獲得型施策を講じていくことが多いと思います。方法としてはLPO(ランディングページ最適化)、CTAの見直し、リスティング広告、SEO対策などがありますが、顕在層からのリード獲得を継続していくと、いずれ獲得ペースが鈍化する恐れがあります。特にこれから新しい市場を創っていこうとしているサービスであれば、リードの枯渇は比較的早く訪れるかもしれません。これを見越して、新規の需要喚起をしていく活動が必要ですが、これこそがPRが果たす役割です。
たとえばある日、法務担当者がWebニュースや新聞などで「クラウド完結で契約書作成に取り組む企業が増えている」といったデータを見たら、ちょっと気になるはずですよね。さらにその数日後、「同業他社が導入し、業務効率化が進んでいる」という事例記事を読んだとしたら、その気持ちが危機感に変わるかもしれません。このように、適切なタイミング・文脈でメディア露出を獲得しながら潜在層の需要を喚起していくことが、PRにできることです。
課題(2)機能面での差別化が難しくなる
SaaS事業においてプライオリティが高いのは、やはりプロダクト力の向上かと思います。どの会社も顧客の課題や企業が目指すビジョンを基に、プロダクトを磨き込んでいきます。時には競合の機能をチェックし、実装していくこともあるでしょう。こうした繰り返しにより、各社のプロダクトの基本機能が“似たり寄ったり”になることがあります。機能面でほとんど差がないとしたら、どこで違いを出すことになるのでしょうか。その解の1つが、情緒的な価値の創出です。具体的には、プロダクトの世界観や思想・哲学、企業のカルチャーなどが差別化の要因になります。そしてSaaSモデルの場合、顧客には将来の価値や期待も織り込んでもらうべく、「この指、とまれ」のようなコミュニケーションで、賛同者やファンを増やしていくことも必要です。
なお、世界観で人々を惹きつけている例としてよく挙げられるのは、イーロン・マスク氏が率いるテスラです。同社は日々アップデートされていくソフトウェアを強みにしているという意味では、SaaS事業とも言えると思います。現在の自動車販売台数だけで見れば世界の自動車メーカーの足元に及びませんが、2020年に同社の時価総額がトヨタ自動車を抜きました。提供されているプロダクトも素晴らしいと思いますが、それ以上に同社が目指している世界観に強い期待が寄せられているのではないでしょうか。
