いま必要なのは、すぐれたマニュアル
四家
いろんな動きはあるけれど、「ユニバーサルデザインWeb」は、やっとスタートラインに立ったという感じですか?
濱川
品質の高いWebサイトを維持し続けるためのPDCAサイクルを確立しなければ、スタート時点から品質が下降していくだけです。そのためには、やはり基準だけでは不十分で、人材の教育・ツールやワークフローの整備が必要だと思います。
四家
デザインの最適化の前に、デザインプロセスの最適化。
濱川
そうです。プロセスを変えなければデザインは変わりません。無理に変えようとしても、結局どこかにゆがみが出て、現場が疲弊してしまう。プロセスを変えればデザインも自然に変わります。現場のワークフローをスムーズにするにはルールではなく、みんなが理解できるマニュアルが必要なんですね。
四家
そういえば濱川さんはマニュアルつくるのうまいですよね。それもサービス業のマニュアルを熟知しているからなんでしょうか。
濱川
確かに、サービスレベルを一定に保つためには、個人の能力に依存しないで、誰もが同じ意識と知識を身に付けられるマニュアルが必要です。そうした意味ではサービス業のマニュアルは優れたものが多いと思います。
四家
僕は濱川さんが優れたマニュアルをつくっているのを見ていたので、書籍の話を持ち込んだわけですが、社内で1、2を争う多忙な社員に本を書けというのは、もう鬼ですね(笑)。
濱川
でも、ものすごく頭が整理されました。なんとなく理解していたことを他人に伝えるために、体系化していく作業が楽しかったですし、すごく自分のためになった。
四家
アウトプットしてみないとわかんないこと多いですからね。
濱川
「デザインプロセスの最適化」といっても、今までは可視化されていない部分がとても多かったんです。可視化して体系化して、マニュアル化する。という作業なので、大変なんだけど面白い。
読む人それぞれの理解度・習熟度のレベルに関係なく、同じ意識と知識が得られるようにするというのは、自分がカレンでやっている仕事と同じことなので、実はこれから仕事がやりやすくなると思ってます。
四家
鬼になった甲斐がありました(笑)。いやこれは冗談ですけど。
濱川
この本は、そのまま現場で使えますよ。ビジネス本というよりも、マニュアルですから。
四家
こういうマニュアルは社内だけの秘伝にしておくことが多かったけど、1社でやっていても広がらないし、ムーブメントにならない。これがその第一歩になるといいなと思ってます。
濱川
僕もそう思います。この本は「デザインプロセス」のマニュアルであり、「デザインプロセス」を学ぶ講座となっているので、ご興味のある方はぜひ。
人と向き合い、人を育てていくには
四家
ムーブメントにつながる話だけど、Webデザインの世界には「人材育成」の問題がありますよね。
濱川
これは、ぜったい必要です。優秀なWebデザイナーのニーズは高まりつつあるのにリソースが足らない。任せられる人材がいないから頼むことができない、だから、やむなく場当たりのバリアフリーになっていることが多いんですよ。
四家
人材育成の話は、デジタルハリウッドに持ち込んだら話が早かったですね。さっそくオンラインスクールの話が来た。
濱川
僕は、ユニバーサルデザインの観点からWeb制作講座のカリキュラム作成をサポートしました。
四家
話すのは苦手みたいだけど、オープンカレッジでの講演も依頼されたんですよね。
濱川
学生さんがメインだったので、ちょっと内容が難しかったかもしれませんが、一生懸命メモを取っている学生さんもいて、「これからをになう人材がいそうだ」と感じました。人材育成という面でも、こうした光景はうれしいですね。
四家
ということで、来年1月からは社会人向けのユニバーサルデザインWeb講座も始まります。
濱川
企業のWeb担当者やクリエイター向けの講座なので。すでにマニュアルもつくりました(笑)。やっぱりコミュニケーションということになると、人と直接向かい合う場はパワーを持っていますね。
四家
それは間違いないですね。そこでは言葉だけではない何かも伝わるし。
濱川
ノンバーバル・コミュニケーション(非言語コミュニケーション)の力はすごいです。コミュニケーションの65%は言語ではなく、身振り・表情などを通じて行われるといわれています。やはり対面でのコミュニケーションはわかりやすいし、勉強という点でも効果があります。
四家
逆にいうと35%以下の部分で、どうやって効率的にコミュニケーションを成立させるか、というのがWebにおけるデザインの役割ともいえるのかもしれない。