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MarkeZine Day 2025 Retail

僕たちのPMFの話をしようか

「みんなにとって50点」の状況から抜け出すために。2つの決断でPMFを手繰り寄せたコミューン

売れているのに起きた問題とは?

 具体的にはなにが障壁になっていたのか。高田氏は当時の状況を振り返り、「正直なところ、プロダクトが売れている理由が掴み切れていなかった」と明かす。

 初期の顧客はかつての自分たちと似た境遇だったため課題感もイメージでき、思い描いていた通りの価値を提供できた。ただそのマーケットは決して大きくなく、対象となる顧客数は限定的だ。事業をスケールさせるためには、別の顧客にもアプローチをする必要があった。

 幸いにも「そもそもプロダクトがまったく売れない」という事態に陥ることはなかったが、肝心の「顧客から求められていること」や「commmuneを使ってくれている理由」が多様化していったという。

 「commmuneは“How”を提供しているプロダクトだったので、お客様が増えていくにつれて『コミュニティを活用したいという思いはすべてのお客様に共通しているものの、解決したい課題はバラバラ』という状況が生まれていきました。売れはするものの、一体どこに刺さっているかがわからなくなっていったんです」(高田氏)

 課題がバラバラだからこそ、顧客の成功に伴走するカスタマーサクセスの仕事も毎回違うことが求められ難易度が高い。悶々としながらも目の前の顧客を何とか支援する、そのような状態が約1年にわたって続いた。

取材の様子(左から)DNX Ventures Industrial Partner 稲田 雅彦氏、才流 代表取締役 栗原 康太氏、コミューン 代表取締役CEO 高田優哉氏、SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏
取材の様子(左から)DNX Ventures Industrial Partner 稲田 雅彦氏、
才流 代表取締役 栗原 康太氏、
コミューン 代表取締役CEO 高田優哉氏、
SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏

スタンスの明確化と価格の引き上げを決断

 2019年の2月に有料版の提供を始めてから1年後となる2020年2月。高田氏は2つのアクションを起こす。厳密に言うとそれまでに段階的に着手していた取り組みではあったが、ここで踏み込んだ対応をとったことが、結果的にcommmuneをPMFへと導く大きなきっかけとなった。

 1つ目は、「誰のどのような課題を解決するプロダクトなのか」というスタンスを明確化し、ターゲットを絞ったことだ。

 「それ以前はスタンスを定めることに抵抗がありました。プロダクトの可能性を狭めてしまうと感じましたし、それを決断できるほどの自信もなかった。コミュニティを売るというほうが顧客にも伝わりやすいのではないかとも思っていました」(高田氏)

 だが、社内の体制は限界に近づきつつあった。限られた時間の中で顧客の成功を伴走支援し、そこで得られたノウハウを型に落とし込んで有効活用するようなサイクルが回せていなかったため、導入社数だけが増えていきカスタマーサクセスのスタッフが疲弊してしまう。プロダクト開発においても、次第に一部の顧客のみが求めるような細かい開発の比重が増え、いつしか「みんなにとって50点のような状態」になりつつあった。

 この現状を打破するためには、最も高い価値を提供できる顧客は誰かを見定め、そこに集中することが必要だ。そこからcommmuneは「企業のカスタマーサクセスを支援することで、エンドユーザーのLTVを上げるためのサービスである」と打ち出すようにした。新規顧客向けの施策やファンクラブのような位置付けで使ってくれる企業も存在したが、あくまでもそれはcommmuneが解決する課題の本流ではないと定義した。

 それと同時期に、最安プランの料金を7万8,000円から25万円へと3倍以上引き上げることに。顧客の対象を絞り、大規模な値上げをする。一見すれば顧客の数が減ってしまい悪影響を及ぼすようにも感じるが、結果はその真逆だった。

2つの決断が、本来向き合うべき顧客に引き合わせてくれた

 特にわかりやすいのが、セールスにおける変化だ。以前は一生懸命に説明してようやく売れていたプロダクトが、“勝手に売れるような感覚”で売れていく。それまでは創業者として人一倍プロダクトに対する熱量を持った高田氏自身が積極的にセールスを行っていたが、スタンスとプライシングを変えて以降は、経験の浅いメンバーが受注するケースも増えた。

 なぜ急にこのような変化が生じたのか。「(スタンスとプライシングを変えたことで)本来自分たちが伴走すべき顧客から目を向けてもらえるようになり、commmuneならではの価値もさらに出せるようになった」というのが高田氏の考察だ。

 まずPMF前と比べて、commmuneに興味を示してくれる企業の属性が変わった。当初はスタートアップが中心だったところから、エンタープライズが主軸になったのだ。

 「ユーザーとのコミュニケーションにより大きなペインを抱えているのはエンタープライズの企業だということがわかるようになりました。顧客数が多い企業ほどすべての顧客の状況を把握する難易度が高く、人力で対応するにも限界があります。また大企業は利益を重要視する企業が多いため、赤字覚悟で人件費に大規模な投資をすることも難しい。だからこそ課題がクリティカルでニーズが強いんです」(高田氏)

 単価を上げたことで、カスタマーサクセスのスタッフが伴走できる盤石な体制が整い、それがLTVの向上という顧客の目的達成を後押しした。スタンスを絞ることとプライシングを上げることは切り離せない関係であり、この2つが噛み合ったからこそ、コミューンは一気に事業を加速させることに成功した。

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BtoB×SaaSのPMFは、検証に時間がかかる

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チームPMF(チームピーエムエフ)

才流 代表取締役 栗原康太氏、DNX Ventures Venture Advisor / EIR 稲田雅彦氏、SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏による取材チーム。BtoBスタートアップの手触り感をもった"PMFストーリー"を伝えるべ...

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大崎 真澄(オオサキ マスミ)

ライター。大学在学中&休学中に複数のIT系スタートアップでインターンを経験後、フリーランスとして独立。DIAMOND SIGNALに関わる以前には「TechCrunch Japan」などでスタートアップ企業のプロダクトや資金調達を中心としたインタビュー・執筆活動を行っていた。4年前から長野県在住でフルリモートワーク...

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MarkeZine(マーケジン)
2021/10/04 09:00 https://markezine.jp/article/detail/37271

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