パーパス“Real Beauty”に基づいたDoveの活動
具体的にユニリーバではどのようなPurpose Led Marketingがなされているのか。木村氏はDoveを例に出す。米国生まれのブランドDoveは英語では“Real Beauty”、日本語では“あなたらしさが美しさ”をキーワードに掲げ、世界で統一されたコミュニケーションを行っている。
「すべての女性が本来持っている自分の美しさに気づくキッカケを作ることをパーパスにし、美しさの定義がステレオタイプにならないようにしています。具体的には広告には一般人を採用し、動画・静止画ともにリタッチは一切していません」(木村氏)
加えて、世界中で10代の自己肯定感を高めるself esteem projectという継続的な取り組みもなされている。Doveが2017年に実施した調査によると日本人の少女たちのうち、自分の容姿に自分の容姿に自信をもっている人はたった7%。これは、世界で最も低い数値だ。彼女たちに自分らしくいることが大切だと伝えるワークショップや、学校での講演を続けている。
Purpose Led Marketingを進める3つのポイント
Purpose Led Marketingの展開スキームは、ブランド自体をパーパス主体で形成するパターンと、パーパスを元にブランド・エクイティを形成していくパターンの2つが考えられる。
前者の場合は脱プラスチックや再生可能な素材の使用などが挙げられる。また、パーパスというと、こちらを意識することが多いかもしれない。だが、「実際はそうではありません」と木村氏は語る。これまで例に挙げたDoveがまさに後者のスキームだ。
「Doveは長く、自分らしさを表現するブランドとしてコミュニケーションをしてきました。その延長で10代の子どもたちに対し、自信をつけていく活動を組み込んでいます。つまり、どんなブランドでもパーパスの考え方を持つことができるのです」(木村氏)
では、Purpose Led Marketingを実際に進める際には、どこに留意すればいいだろうか。木村氏は3つのポイントを挙げる。
1つ目が、まずは実際にアクションをとり(Brand do)次にキャンペーンなどの広告を展開する(Brand say)。この順番を遵守することだ。2つ目が継続を前提とした設計をすること。そして、3つ目が覚悟を持つこと、勉強をすることだ。パーパスは性格柄、アクションやメッセージは社会への問題提起であることも多い。反論や炎上は発生する前提で公に議論する覚悟を持ち、会社はもちろんマーケターも勉強をしていく必要がある。
結局、やるか・やらないか
今後、ブランド企業がどのように差別化を図っていくのか。その鍵として木村氏はトラッキングとパーパスという2つの取り組みを紹介した。毛色は違うものの、どちらにしても「やるか・やらないか」の二択だ。
「調査への投資を怠るブランドも少なくはないですが、時間とリソースをかけて作り上げたブランドのイメージを客観的に可視化し、正しい方向に導くには、トラッキングは必須です。ToC・ToBに関わらず、戦略的にブランディングに取り組んでいる会社は、毎週・毎月のように、ブランドイメージを定点観測しており、それをビジネスを成長させるための材料にしています。また、パーパスも同様に、今後のブランド創りにとって、当たり前の考え方になってくると思います。パーパスは、トレンドワードや、一部のブランドのみで実施すべき内容に聞こえますが、10年前に、ECやデジタルでモノを売るなんて考えにくい時代だったのと同様に、今後、『パーパスのないブランドがあったなんて』という時代が来るので、どちらも早いうちに取り組んだほうがいいと思います」と木村氏は考えを示し、講演を締めくくった。