近代マーケティングの父が見る未来展望
コトラー氏がこれまで述べてきた、マズローの欲求段階説とともに進化し「自己実現」に達成するMarketing 4.0を、WMSアンバサダー 江端浩人氏が日本に紹介したのは2014年(参考記事)。これに次ぎ、コトラー氏がヘルマワン・カルタジャヤ氏、イワン・セティアワン氏とともに共著した『Marketing 5.0: Technology for Humanity』は英語版が今年2月に上梓されている(参考記事2)。
なお、昨年初めて開催されたeWMSでは、サンドラ・ヴァンダーメルウェ氏がアイルランドのデイビッド・エリクソン氏とともに「自己超越」を解説したのも、コロナの猛威最中の様相を色濃く反映していた(参考記事3)。
今回、コトラー氏はヴァルデマール・ファルチ氏ならびにウーヴェ・シュポンホルツ氏との新たな共著『H2H Marketing: The Genesis of Human-to-Human Marketing』(邦題『コトラーのH2Hマーケティング 「人間中心マーケティング」の理論と実践』)のエッセンスを紹介した。それは、「マーケティングとは、マーケターと消費者それぞれの利益が合致する人と人とのやりとりなのだ」というものだ。なぜそうなのか、何が未来に待っているのかについて、コトラー氏が鋭く切り込んだ。
戦いはコロナだけで終わらない
序盤から「コロナだけではない、クライメイト(気候)という挑戦を見逃してはならない」と述べたコトラー氏。「未来は正確に予測できるものではない。ビジネスとマーケティングを待ち受ける未来に貢献できるよう、社会がどこに向かっているかを観察しなければならない」と指摘する。
コトラー氏は一貫してテクノロジーへの造詣が深い。今回の講演においても、AI、3Dプリント、マーケティング自動化に触れた一方で、「いずれマーケティング施策は機械が実施するものとなり、マーケターの仕事は正しく呼応することになる」「適時、適材適所、正しいメッセージと適正な価格が鍵になる」といった状況は「夢に過ぎない」と断言していた。
以下、講演で触れられた論点を詳しく取り上げていく。
講演で提示された論点
1. コロナ後の世界、ビジネス、消費者
2. 消費観の変化とパーパスの明示
3. 新技術との向き合い方、マーケティング業務がどのように変わるか
4. 広告の未来、見直されるべき女性の描かれ方
5.ブランドアクティビズムと愛される企業の共通点
コロナ後の世界、4つのシナリオ
まず、コロナ後の世界はどうなるのだろうか。4つのシナリオが想定される。
1つ目は、飲酒などの生活習慣がコロナ前の通常に戻り、これまでの平均的な経済成長まで回復する。2つ目は、在宅勤務やサブスクリプション型エンターテイメントなどによる新しい生活様式とともに、これまでよりも高い経済成長を実現する。
残りの2つは価値観や規律の大きな変容を伴うものだ。3つ目は、北欧モデルとも呼ばれる、経済と社会正義を実現する、富裕層への増税、教育費や医療費の負担軽減などの施策を通したシナリオで、コトラー氏は「理想的」と述べる。4つ目として、より栄養価の高い食事ならびに食品ロスの削減といった生活と環境の両立、徒歩・車・飛行機など移動手段の選択による二酸化炭素排出のコントロールなど、消費者行動によって地球を守るための規律が生まれる。「これによって、マーケティングの未来は大きく変わる」とコトラー氏は期待を示す。