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キャラクターMVの高評価率99.7%!コアなファンを育成する松竹×D2C Rの広告戦略

 消費者とのタッチポイントの多様化によって、エンタメ業界におけるデジタルマーケティングが活発化してきている。一方で、クリエイティブに関する知見はあっても、ファン育成や広告戦略のノウハウを社内に持つ企業は多くはないのが現状だ。本稿では、松竹が展開する自社コンテンツ『フロムアイドル』におけるデジタル戦略と、コンサルタントとして伴走してきたD2C Rの取り組みについて詳しい話を伺った。

松竹が提供する新たなエンターテインメント

MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、皆さまのご経歴と現在の業務領域についてお教えください。

松竹 事業開発本部 開発企画部 演劇企画開発室 室長 石毛宏明氏、松竹 事業開発本部 開発企画部 演劇企画開発室 星野加緒里氏、D2C R 統合プランニング本部 ストラテジックプランニング部 ストラテジックプランナー 池邊沙也加氏
(左から)松竹 事業開発本部 開発企画部 演劇企画開発室 室長 石毛宏明氏
松竹 事業開発本部 開発企画部 演劇企画開発室 星野加緒里氏
D2C R 統合プランニング本部 ストラテジックプランニング部 ストラテジックプランナー 池邊沙也加氏

石毛:私は2004年入社のプロパーで、16年松竹に在籍しております。歌舞伎の劇場の仕事や映画館の運営など、複数のプロジェクトに携わった後、事業開発本部の所属となりました。

 松竹には5つの本部がありますが、事業開発本部はできて2年程の新しい部署です。現在は、新しいエンターテインメントコンテンツを作る、という大きなミッションに沿って動いている状況です。

星野:私はフリーランスや起業などの経験、IPを使ったテーマパーク企画の前職を経て、松竹に入社しました。前職で他社IPを活用しての企画づくりを重ねるうち、自ら企画したIPを立ち上げたい、という想いが強くなり、転職して現在に至ります。現職では、新規IPの企画に携わりながら、二次元アイドルプロジェクト『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の、マーケティングやビジネス周りを包括的に担当しています。

池邊:D2C Rでストラテジックプランナーとして働いています。前職では4年間、アプリゲームのコンテンツディレクターをしておりました。やりがいのある仕事でしたが、良いプロダクトも人に知られなければ意味がないんだな、と、広告の重要性を感じる瞬間が多かったです。自身の経験から、情熱を持ってコンテンツを制作する方の力になりたいと考えたのが、D2C Rに入社したきっかけです。

 入社してまもなく、社内でマーケティング戦略推進の機運が高まり、ストラテジックプランニング部という部署が新設されました。そこに立ち上げメンバーとして参画し、現在に至ります。

文通ができる二次元アイドル『フロムアイドル』

MZ:生活者やエンタメ業界のデジタルシフトについて、どのようにお考えでしょうか。

石毛:個人的には松竹はデジタルシフトの流れの中では後発かと思いますが、それでも最近は変化を感じており、チケット予約や購入についても、ほとんどのお客様がWebを活用するようになりました。

 そんな中、PRの手法も変わってきています。シニア向けのエンタメでは新聞広告やチラシなども併用しますが、今回の『フロムアイドル』や、中高生向けの映画などについては、デジタル広告が多くなってきました。SNSの主要なタッチポイントは当社でも網羅していますし、業界全体を通して、今後もデジタル活用の比率は増えていくと思います。

星野:コロナ禍を経て、デジタルシフトはより加速したのではないでしょうか。以前はSNSを活用するにしても、企業・コンテンツ側から一方的に「お知らせ」などを発信するのが一般的でした。現在は、ファンを巻き込んだ相互交流が進んでいて、ユーザーと企業がより深くつながれるようになったと感じています。

MZ:今回D2C Rと一緒に進めてこられた二次元アイドルプロジェクト『フロムアイドル』でもファンとのコミュニケーションに力を入れていますよね。本プロジェクトの概要をお聞かせいただけますか。

石毛:『フロムアイドル』は、松竹が企画・展開する、自社オリジナルの二次元アイドルプロジェクトです。アイドルと直筆の手紙のやりとりができるサービスが最大の特徴で、女性アイドルの『Princess Letter(s)!』と、男性アイドルの『Prince Letter(s)!』の二軸で展開しています。文通をコアに、楽曲やグッズ、声優のライブなど、様々な展開を広げていくプロジェクトです。

星野:デジタルシフトが進む現代だからこそ、手紙のようにアナログな交流を求めるニーズが高まるのではないか、と考えています。認知の獲得や集客の部分はすべてデジタルでフォローしつつ、最後はファンの方一人ひとりに“あなただけの”アナログなコミュニケーションをお届けする、というのが『フロムアイドル』のコンセプトです。

パートナーはコンテンツの理解者でなければいけない

MZ:『フロムアイドル』のマーケティング戦略を共同体制で推し進めた背景について教えていただけますか。

石毛:『フロムアイドル』はアナログなコミュニケーションが売りのコンテンツですが、ターゲット層を考えた場合、デジタルを活用したマーケティングが必須であるのは明白です。

 ところが、我々の演劇企画開発室には演劇部門の出身者が多く、デジタル広告のノウハウがほとんどないような状況でした。

石毛:実は立ち上げの段階では、D2C Rさんとは別の、社外アドバイザーの方に入っていただいた経緯があります。

 立ち上げ当初は、自己流でYouTube広告のKPIを再生回数10万回に設定し、結果として3日で10万回再生を達成できましたが、コメント欄は、英語や見たこともないような言語で埋めつくされていて。我々が広告を見せたいターゲット層に届いていなかったんですね。この時の経験から、コンテンツのコンセプトを理解してくれるマーケターと組まないとうまくいかない、と強く感じました

MZ:新たな社外パートナーとして、D2C Rを選ばれた理由は何でしょうか。

石毛:立ち上げメンバーの一人がD2C Rの方と面識があり、それがきっかけで池邊さんにお会いする機会がありました。お話を伺った時に「ただの宣伝会社ではないな」「コンテンツを理解した上で、マーケティングのプロとしてアウトプットを出してくれそうだな」と感じたことが協業に至った理由です。

池邊:D2C Rにおける気風としても、私自身としても、まずは自分がコンテンツのファンにならないと、ユーザーの気持ちはわからない、と考えます。『フロムアイドル』については、ひょんなことからその存在を知り、事前に触れる機会があったんです。コンセプトもクオリティも良くて「このコンテンツが喜ばれない訳がない」「ぜひ一緒に並走したい」という熱量で、プロジェクトに参加させていただきました。

ファン育成を目指す定性的な目標を設定

MZ:本プロジェクトにおける具体的な取り組みについてお聞かせください。

池邊:最初は石毛様からのオーダーもあり、コンテンツの走り出しということで、KPIの設定を一緒に考えるところから始めました。コンテンツごとの目標、松竹様の社内で設定された目標もあるので、数字的なKPIはしっかり立てつつ、そもそもの定性的な目標として、ファンの熱量をしっかり増やすこと、ファンの経済圏を大きくすることなどを掲げました

 また、最初の時点からUGCについては強く意識しています。ファンが内輪で閉じてしまうとコミュニティの広がりが生まれないので、ユーザーが外に声を出しやすい環境づくりを目指しましょう、とお伝えしました。

 そこから、SNSのチャネル拡大や、ユーザーとの接点を増やす生放送などの施策、口コミを伸ばすためのハッシュタグなど、施策に関するディスカッションを重ねています。

 さらには広告戦略やそのクリエイティブの表現についても力を入れています。それはデジタルに留まらず、たとえば駅の構内に掲出するOOHであれば、学校の掲示板のようにすることで目に留まるようにしたり、セリフを入れることでキャラクターの内面的な特徴を伝えられるようにしたりと、コミュニケーションに関わる様々な場面で伴走させていただきました。

【タップ/クリックで拡大】(上)実際に駅構内に掲出したOOHのクリエイティブ(下)掲出時の様子
【タップ/クリックで拡大】(上)実際に駅構内に掲出したOOHのクリエイティブ/(下)掲出時の様子

石毛:広告支援の部分では、特に大きく貢献いただきました。デザインの段階からD2C Rさんに入っていただいたことで、ユーザーへのフックを意識した広告が出せたと思います。

YouTubeのMVが高評価率99.7%を獲得

MZ:D2C R様がデジタルマーケティングの専門家として加わったことで、プロモーションの現場ではどのような効果や結果が得られましたか。

石毛:素人っぽい話ですが、マーケティングの結果が見えるようになりました。何がうまくいき、何がダメだったのか、理解できるようになった部分は大きいですね。

 池邊さんからは、アドバイザーとしての意見はいただきますが、実際に現場で手を動かすのは我々です。D2C Rさんがいなくなったら何もできなくなる状況は嫌なので、社内にある程度自走できるノウハウを溜められたのは非常に良かったと感じています。YouTubeもTwitterも見様見真似ですが、プロの助言をもらいつつ、ある程度自走できるようにしていくというのは、他社様にもおすすめしたいですね。

池邊:石毛様がおっしゃったYouTubeについてですが、当初のYouTube広告を拝見した時点では、キャンペーン設計の段階から、配信目的に対して適切でない形になってしまっていたんですよ。

 そこから、配信手法やターゲティングに関する設定を細かくお伝えして、ユーザーをセグメントしてと、設定を深めていった結果、10%以下だった視聴率を、30%まで上げられました。

 直近では、4分半の長尺のMVをCPV配信で流しましたが、これは視聴数が増えつつも視聴率が50%を超えています。見てくれる、喜んでくれるユーザーが増えているのが、数字として表れているのではないでしょうか。

星野:先月、ポエトリーリーディング楽曲『雁矢よしの話』のMVを、ターゲティングを調整して広告配信したところ、高評価率99.7%を獲得しました。広告接触にも関わらず、MVに対して好意的なコメントも多く寄せられています。親和性の高いターゲットに広告を届けることで、評価にもつながることを改めて認識しました。

星野:コアなファンの方がサービスイン当初から少しずつ増えていると感じます。これからも、ファンの皆様と一緒に盛り上げていけるように、池邊さんと相談しつつ、新たな施策を仕込んでいきたいと考えています。

コンテンツの成長、ファンの成長を段階的にサポート

MZ:『フロムアイドル』についての今後の課題や、コンテンツメーカーとしての展望についてお聞かせください。

星野:サービスのコアである「文通」は、ファンの皆様からいただいたお手紙の内容に合わせ、1枚1枚手書きで書いた返信をお送りしているということもあり、現状は提供価格を高くせざるを得ない状況です。そのため、価格により体験のハードルが高い、というお声をいただく事があり、うまく払しょくできるような取り組みを進めています。

星野:文通サービスをECの一種と捉え、たとえばECサイトによくあるお試しプランのようなものを用意する、などの策を展開する予定です。その他にも「楽曲は良いがキャラや世界観はよくわからない」という意見が見られるので、いかにして作品全体のファンになっていただくか、という施策の必要性を感じています。

 現在新曲リリースの計画をすすめておりますが、それまでの間をつなぐようなコンテンツや、引き続き認知獲得のため、他社様とのタイアップ企画などを推し進める方針です。

MZ:D2C Rとしては、今後どのような価値を提供できるとお考えでしょうか。

池邊:『フロムアイドル』は魅力的なコンテンツですが、複層的で複雑な側面も持っています。文通というコアな体験がフックになる一方で、エンタメ体験としてハードルが高い、という矛盾も抱き合わせています。

池邊:従来のコンテンツでは、コンテンツの核となる特徴を、様々な表現パターンに落とし込んで訴求するのがベターです。しかし「フロムアイドル」の場合は核となる文通体験だけではなく、まずは楽曲やストーリー、バックグラウンドを知って楽しんでもらい、文通相手としてキャラを好きになってもらう必要がある。そうして文通相手としての価値が生まれます。そこまでの階段付けの部分についてはしっかりとサポートしたいと考えています。

 『フロムアイドル』がコンテンツとして、アイドルとして成長していく過程を、ファンと同じ速度で歩むような支援を続けたいと考えています。

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この記事の著者

坂本 陽平(サカモト ヨウヘイ)

理系ライター、インタビュアー。分析機器メーカー、国際物流、商社勤務を経てフリーランスに。ビジネス領域での実務経験を活かし、サイエンス、ODA、人事、転職、海外文化などのジャンルを中心に執筆活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/11/08 10:00 https://markezine.jp/article/detail/37579