唯一無二であることが生み出す、圧倒的な価値
高橋:ストリートに端を発した「最大公約数で書く」を大切にしていらっしゃることが成功の秘訣と感じるのですが、それは同時に「2つとして同じ作品はない」という価値も生み出していますよね?
武田:確かに、同じものは書かないですね。ただ、言葉も漢字も僕が作ったものではなく、みんなが共通して使っているもの。「愛」にしても「優」にしても、みんな知っているから、状況に合わせて書くことで価値を出せるし、より伝えられると思っています。

高橋:マーケティングの有名なフレームワークに「Who(誰に)・What(何を)・How(どうやって)」というのがあります。双雲さんの書は、この中で「What」と「How」にものすごく大きな強みを持たれていますね。「顧客や関係者のために書かれる唯一無二の書」を「ストリートで鍛えたヒアリング力、聞き手としての力」を通じて書き上げているということかなと。
たとえば「愛」という言葉にしても、世の中に2つとない「愛」を書くわけだから、買い手にとってすごく価値のあるものになるんじゃないでしょうか。
お客様一人ひとりの感動ポイントは違う
武田:一つひとつ違うというのは僕が人間だからできるのであって、パソコンのフォントやAIが書いた書は大量生産されて個性がないですもんね。
高橋:AIが同じように書いたとしても、価値はないでしょうね(笑)。
双雲さんは、元の字が何かわからなくなるくらい、字体を大きく変えた作品を多数作っていらっしゃいますね。僕は書に関しては素人ですが、双雲さんの書には、唯一無二の字であるという強い独自性と、自分を理解し、自分のためだけに書いてくれたという希少性があるから、字体をどこまでもユニークに尖らせていくことが、むしろ価値を増幅しているのかもしれませんね。
武田:それでいうと、先日300点規模の個展を開いたときに、どういうタイプの作品が人気なのか実験してみたんですが、とてもおもしろい結果になったんですよ。
個展では、カラフルなかわいいものやポップで明るいもの、かっこいいとかダークな感じのもの、きれいな字のもの、ただ墨を散らかしただけのものなど、とにかくすべて違うタイプの作品をそろえました。
その売れ行きから人気の傾向が見られると思ったのですが、何と偏りなし。あらゆるものが売れたんです。つまり、お客様一人ひとりの感動ポイントが全然違ったんですよ。
高橋:企業のマーケティングだったら困りますね、どれを生産するべきなんだ!?って(笑)。
武田:そうでしょうね(笑)。でも幸い僕はアーティストで、元々同じものを作りたくないタイプなので、すごく嬉しかった。
同じものを作り続けるより、次々といらないことをして、クレイジーな自分にとっても新しいものをどんどん生み出して、新企画がヒットしていくほうがおもしろいじゃないですか。今回の実験結果で何をやってもいいんだという自由感を得られて、今すごくワクワクしているんです!
高橋:「顧客や関係者のために、唯一無二の書を作る」というところから「唯一無二の書を作ったら、顧客が後から付いてくる」に、構造が変わりますね。掘り下げてお聞きするのが楽しみです。
ここにマーケあり!
・双雲さんの人気の秘密は「顧客や関係者にとっての唯一無二な書」であり、そして「相手を思いやる聞き手としての力」がこれを実現可能にしているのだと気づきました。
・表面的に双雲さんの字を拝見していても辿り着けない「なぜ、人は双雲さんに書いてもらいたくなるのか」ということの答えが、垣間見えた気がします。その背後には、双雲さんの原点であるストリートでの苦い経験や、相手を思いやり聞き手となることで書が売れるという成功体験がありました。
・双雲さんの字は、その価値が「きれいに書かれていること」「正しく書かれていること」から離れているので、字体を大胆に変えてしまうという行為が受け入れられています。むしろ、字体を大胆に変えることで、作品の唯一無二性が引き出され、価値が増大するのかもしれません。
「書道というカテゴリーの中に身を置きながら、一般的な書道家とは違うゲームを生きている」――私にはそのように感じられました。
後日、記事の後半を公開します! お楽しみに!