相手を知るためのコミュニケーションですべてがうまくいき始めた

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイルを創業。
ナイルにて、累計1,500社以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月10,000円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる。
高橋:人を喜ばせたいのは元々の性格とのことですが、書道家としても、初めから依頼者や書を目にする人を意識した作品作りを心掛けていたんですか?
武田:いえ、書道家としてのスタートはストリートだったのですが、初日はなかなかゴザを広げられず、いざ広げてもどうしていいかわからなくて、「ゴザに座っているだけのお兄さん」でした(笑)。
小学校高学年くらいまでは、陽気なキャラクターでとにかく明るくて無邪気な子供だったんですが、中学生くらいから、ヤンキーっぽいのがモテる時代だったこともあって、キャラを封印したんです。ストリートの初日は、そのときの「人にどう見られるか」みたいな意識がよみがえって、萎縮しちゃったんですよ。
そんなだから、人も集まってこないし、僕自身も全然リズムが作れなくて、ただ自分がどう見られているのかが気になって、辛いだけでした。
高橋:相手よりも自分に意識が向いていたんですね。そこからどのように変わっていったんですか?
武田:「あなたの好きな言葉を書きます」「あなたの話を聞かせてください」という案内を出しました。そうしたら結構な人が立ち止まるようになって、みんな悩みや愚痴をしゃべり始めたんです。
最初はすぐに書いてみたのですが、全然ダメ。それで、書かずに話をずっと聞いていたら、その人がしゃべりながら泣き始めて、「書いて」って言われたので書いたら、泣きながら「10,000円」と値をつけてくれたりして。そんな感じで一気に売れるようになったんです。
「うわ!何これ!?」でしたよ(笑)。僕自身は何も変わっていないのに、ただ話を聞いて、言われたとおり書いたときだけお金が入るんですから。
人への探求心が仕事の幅を広げた
高橋:相手のために話を聞くことが、すべてのきっかけになったんですね。
武田:コミュニケーションをとるほうが、自分らしさを出せるタイプみたいです(笑)。僕もノリノリになれるし。そこから、すべてがうまくいくようになりました。逆に自分しか見えていなかったときは、ひとりよがりで自分らしくなかったなって。
高橋:CM制作の話にしても、コンテクストは似ている気がします。最大公約数の作品作りは、ストリートでのご経験の延長にあったんですね。
武田:当時は25歳くらいで、それまで人の気持ちなんて考えたこともなかったですからね。ストリートで初めて、人の話を聞いて相手を知ろうとした中で、びっくりすることもたくさんありました。ネガティブな思考に触れたのも初めてだったので。
その後も、書道教室の奥様方から女性の気持ちを聞いたときに「自分が思っていたのと全然違った!」ということもありましたね。「先生には闇はわからないよ」と言われて「闇って何?」って(笑)。そういった探求心がのちに書籍の出版にもつながるなど、仕事の幅も広がっていきました。