売上好調の中でのリニューアル。背景にあるブランドとしての思い
2017年以来、「ペットボトルコーヒー」という新市場を開拓し、牽引し続けているサントリー「クラフトボス」。シリーズ計では2019年・2020年と2年連続で3,000万ケース超えを達成したという。
そんな「クラフトボス」が、発売5年目となる今年3月にボトルデザインのリニューアルを行った。リニューアルボトルでは、ラベルの上下幅を小さくし、コーヒー自体が見える領域を拡大。ちょうど手を添える部分に、お馴染みのロゴイラストが、従来ボトルより大きなスペースでエンボス加工されている。手に取るときに思わず指でなぞってしまいたくなるデザインだ。
元々ブランドとしては売上も好調で、顧客の評価も上々だと言われていたブランドのリニューアル。大幅な刷新に不安はなかったのだろうか。同社ブランド開発事業部 部長の多田誠司氏に尋ねたところ、今回のリニューアルには、ブランドとしての“ある思い”があったという。
「クラフトボスは、“仕事の相棒”をコンセプトに掲げているブランドです。そんなクラフトボスが、今の不確実な社会状況に閉塞感を覚えながら働く人に対し、何も語り掛けないという選択肢はない、とBOSSチームで話し合いました。コロナ禍で働く人が抱える不安を癒やし、励ますプロダクトに変化させる必要がある。そんな想いが、今回の『クラフトボス』リニューアルにつながっています。
調子のいいブランドをここまで変えるのは、当社としても類を見ないことです。当然投資もかかりますし、ビジネス的には経済合理性があまりないです。理屈で説明できないからこそ、不安にもなります。ただ、その不安を越えない限り、ユニークで新しい提案をすることはできません。BOSSのブランドチームメンバーはともに歩きながら考え、ブラッシュアップを繰り返し、そして、徐々に形を帯び、ある段階で『いける』という確信を得ていったと思います」(多田氏)
“エンボス加工”で安心感と愛着を感じるボトルに
2017年のBOSSのペットボトルコーヒーの発売により、「ペットボトルコーヒー」というカテゴリーの存在感を飛躍的に引き上げた「クラフトボス」。コーヒー業界に「ちびだら」飲みという文化を創出したとも言われる。
“正統さと開放感”、本物のコーヒーを、自由に飲む。それが「クラフトボス」ブランドの原点であった。
以前のボトルデザインは、親しみやすい寸胴(ずんどう)タイプのクリアなペットボトル。ウイスキーの瓶を模した嗜好品らしい作り、温かみ、また透明ラベルにブランドロゴを堂々と配することで本格的なコーヒー感とクリアさへの自信を表現していた。2019年には紅茶カテゴリーにも進出したこともあり、この寸胴ボトルは、瞬く間にペットボトルコーヒーの主流に。小売店のコーヒー・紅茶飲料売り場が寸胴タイプのペットボトルであふれるようになった。
対しリニューアル製品のボトルは、“正統さと開放感”の両立という原点の価値に立ち返り、ラベルの上下幅を短縮することでコーヒーの液色をひろく見せることでオーセンティックな味への自信、開放感の双方を表現したという。
「オーセンティックというと、重厚感のある印象になりがちですが、オーセンティックなのに開放感を覚える、矛盾したものを両立させるのが、『クラフトボス』のユニークネスだとブランドチームは捉えています。実際に『クラフトボス』の評価ワードには、コーヒーとしては珍しい“自由さ”、“爽快感”が出ることも少なくありません。飲むことでリラックスするだけではなく、束縛されない自由さを感じる、そこが満たされるのが『クラフトボス』で、そこをぶらすことなく究めたのが、今回の新しい『クラフトボス』です」(多田氏)
ロゴを旧来ボトルよりもさらに目立たせるエンボス加工にしたことも、視覚にとどまらないコミュニケーションとしての狙いがあったそうだ。“手なじみ”の良いエンボス加工が、ブランドの信頼感・安心感を引き上げるとともに、そのボコボコした触り心地に、一層の愛着を感じてもらえるのではないかと考えたというのだ。
デザインディレクターたちが行った顧客リサーチで、ボトルを無意識になでたり、エンボスの輪郭部分をなぞったりする人が多くいたようで、これこそが新しい関係づくりになると直感したのだという。
「デジタル社会の加速、さらにこのコロナ禍でリモートワークが増えて視覚・聴覚ばかりを使うようになり、脳は疲弊していると思います。そんな中で、情報量としては少ないかもしれませんが、エンボスから得る触覚が人間的感覚を呼び戻すインターフェースになっているのではないかとも考えます。これはとても『クラフトボス』らしいコミュニケーションだと思います」(多田氏)
触り心地に一層の愛着を感じてもらいたいという狙いとともに、ボトル自体も“スリム”化し、持ち運びの利便性も向上。どこで働くにしても持っていける、置いておける、時に触って落ち着く。まさに仕事の相棒としての進化を遂げた形だ。