クリエイティビティの延長にある、伊右衛門の“ラベルレス”
昨年4月に過去最大のリニューアルを実施したサントリー緑茶「伊右衛門」の売上は、昨年「伊右衛門」ブランド計で対前年9%増と大きく伸ばしているにも関わらず、今年もまた8月までで対前年7%増と続伸している。
飲料業界では「ラベルレス化」の動きがトレンドとなっている。ラベルレスとは、ペットボトルを包むフィルム状のラベルをなくした販売形態のこと。環境問題への取り組みをきっかけに、廃棄物削減を目的としたラベルレスボトルを販売するメーカーは急増している。
ラベルレスボトルは、主にケース売り商品として販売されることが多い。ラベルに記載されるべき原材料名などが、外装の段ボールに一括表示できることが理由だ。新型コロナを受けた自粛生活により、ネット購入や緊急時に備えた買い置きニーズも高まり、一般ユーザーのケース購入も増え、ラベルレス商品の出荷は全般的に好調だといわれる。また、ケース購入の増加にともない、ペットボトルを捨てる時のラベルを剥がす手間が面倒という生活者の声も聞かれるそうで、ラベルレスボトルのニーズはますます高まると予想される。
しかし、ブランドの視認性・識別性が重要だと思われる店頭においては、ラベルレスで売り出すことはリスクになり得る。その中で、2020年4月に店頭でのラベルレスボトル販売に乗り出した伊右衛門。一体なぜ?
緑茶の鮮やかな“緑”、それ自体が“ラベル”になりうる
ラベルレスボトルを店販で敢行した緑茶の「伊右衛門」は、光に透けた緑茶の透明感が、むしろ苦くも甘いお茶の旨みを想像させ、思わず喉を鳴らしてしまう。
「新しい伊右衛門の大きな特長は、“淹れたての緑茶のような鮮やかな水色(すいしょく)”です」(多田氏)
他のブランドが“エコ”や“手間”から着想してラベルレスを実施しているのに対して、『伊右衛門』のラベルレスは、商品リニューアルの最大の特長の一つである『緑茶本来の鮮やかな“緑”の水色』という魅力を最大限に伝えるための手法として採用したのだ。

「コンビニに陳列されたラベル付き飲料たちの中で、鮮やかな緑の水色を露出させ際立たせることを目的として、敢えてのラベルレスに踏み切りました」(多田氏)
「水色」が推しである伊右衛門だからこそ、「ラベルレス」という手法が、“攻めのクリエイティブ”としてワークしたのだ。
ラベルを剥がしたペットボトル本体にも、伊右衛門らしさが失われないように、伊右衛門のシンボルである「丸茶」マークや縁起物のイラストがエンボス加工で4面に施されている。
日本パッケージデザイン協会が主催する日本パッケージデザイン大賞2021では最高賞を受賞。パッケージリニューアルは業界内でも高い評価を得ている。
3ブランド3様の、プロダクトの本質と社会背景双方を鑑みた緻密なボトルコンセプト開発を紹介した。
ただの入れ物ではなく、ボトルそのものが飲料文化の進化と奥行きを担うということを強く実感させられる。
