オリジナル・本物だけが持つ「意味」と「価値」
かなり前のことだが、直木賞作家・東野圭吾氏の『分身』をAmazon Prime Videoで観た。そのとき、「あ、これはネット広告業界が抱えている問題と同じだな」と思った。もちろん、普通の人はそんな感想は持たないと思う。
あらすじを詳細に書くつもりはないが、この作品では、主演の長澤まさみさんが一人三役を演じる。オリジナルの人間一人とそのクローン人間の二人。はじめは、三人ともまったくの他人として生きているが、クローン側は、自分がコピー人間だと知り、そのアイデンティティが瓦解する。一方で、「本人の同意」もなく自分のデータが勝手に実験に利用され、コピー人間が二人も存在する事実に、オリジナル側も苦悩する。
オリジナルとコピー。本物と偽物。「何がオリジナルで何が本物なのか?」その境界が揺らぐとき、自分が本物だと信じて生きてきた土台が脆くも崩れていく。本物じゃないと「意味」がない。オリジナルじゃないと「価値」がない。そう感じるからだ。
今年、NFT市場が急成長している。NFT(Non Fungible Token)とは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」であり、「ブロックチェーン技術を活用することで、コピーが容易なデジタルデータに対し、唯一無二な資産的価値を付与し、新たな売買市場を生み出す技術」だ。(参考:「NFTとは何かを基礎から徹底解説、なぜデジタルデータに数億円の価値が付くのか?」)
デジタルアートなどで活発に利用され始めたNFTは、「あなたの持っているアートは本物ですよ」と鑑定書を付与する。そのことではじめて、単なるデジタルデータに「意味」と「価値」が生まれる。
「本人の同意」を得た、“本物の個人データ”の価値
2022年から、「本人の同意」を取得したオリジナルで、かつ、本物の個人データに「意味」があって「価値」があるという流れが加速するだろう。
どこかの第三者のサイトやアプリで同意取得をした個人データは、きちんとした手続きで明確な同意をとったかがわからない。そのため、独自にオリジナルで直接的に、ファーストパーティとして、本物の同意取得をするニーズが出てきた。ファーストパーティとしてオリジナルで独自に同意を取得してはじめて、個人データを利用する権利が生まれ、そこに「意味」と「価値」が生まれるのだ。
2022年、ゲームのルールが変わる
ところで、パンデミックになって良かったことがあるとすれば、みんな普通にオンライン会議をするようになったことだ。特に、シリコンバレーやニューヨーク、ロンドンなど海外の知人やGoogle時代の昔の同僚と、結構、気軽にオンラインで話せるようになった。
その海外のIT企業やネット業界の人たちと話していて話題になるのが、「2022年から、ゲームのルールが変わる」ということだ。多くの人が口を揃えて、「フィンテック・アドテック・プライバシーテックが、2022年から徐々に、Convergence(収束・融合)していくのではないか?」とみている。
フィンテックの領域では、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency: CBDC)の普及が期待される。たとえば、2022年2月に北京で開催予定の冬季五輪で「デジタル人民元の利用拡大が見込まれている」。(参照:「デジタル人民元、北京冬季五輪が普及の起爆剤か-展示会で民間と火花」)
あるいは、フィンテックを支える技術=ブロックチェーン領域では、「韓国政府が2022年までにブロックチェーン技術を投票、金融、不動産など7つの分野で実装する戦略を発表」し、「分散型アイデンティティ(DID)サービスの活性化に本格的に乗り出す方針」を打ち出している。
また、「ガートナー予測。2022年に大企業の4割が人事業務にブロックチェーン・AI導入」という記事では、「ブロックチェーンは個人情報を保護しつつ膨大な従業員データを管理するような使い方に、明確な利点がある」とのことだ。