商品価値を決める「価格」戦略
「広告」と「広報」を上手く使い分けて存在を知ってもらい、さらに広報のプロに力を借りてブランド価値を高めていく。しかし、これで終わりではありません。
重要なのは、「価格」と「販路」をつねに見直すこと。なぜなら、「価値を提供し続ける」商品しかブランドとして生き残れないからです。他のどこにもない価値を提供し続けることで信頼が生まれ、信頼の積み重ねがブランドとなる。そのために重視すべきなのが、価格と販路を時代に合わせて見直し続けることです。
まず、価格について。ケンズカフェ東京では、これまで3回にわたってガトーショコラの価格を値上げしました。値上げを行うたびに離れていくお客様もいらっしゃいましたが、値上げしたことで大きな利点がありました。それは十分な利益を確保できるようになったこと。おかげさまでコロナ禍も無事に乗り越えることができそうです。
昨今問題となっているチョコレートやバターといった材料費の高騰にも耐えられ、お客様に高品質な商品を提供し続けられています。
また、価格を上げることで、コモディティ化も避けることができました。発売当初は500g・1,200円で販売していましたが、現在は280g・3,000円となり、実質4倍以上値上げしたことになります。もちろん品質の向上を果たした上ですが、価格を見直さないまま一般の相場に合わせていたら、ブランドを確立する前に商品価値は埋もれていたでしょう。値上げに躊躇する方もいるかもしれませんが、値上げは勇気。やってみて、ダメならもとに戻せば良いのです。そう思えば、勇気をもって一歩踏み出せるはずです。

売上好調だった「ネット通販」をあえて辞めた理由
続いては、販路の見直しについて。これまでケンズカフェ東京は23年にわたり、実店舗は1店舗主義を貫いてきました。こう言うと販路を見直していないように見えるかもしれませんが、実は色々と見直しを図っています。
かつてガトーショコラの通信販売を行っていた時期がありました。日本全国が商圏となり売り上げの7割近くをネット通販で占めていましたが、これをやめて事前予約による店頭受け取りへと変更。売り上げは下がりますが、あえて商圏を狭め店頭販売のみとしました。
「いつでもどこでも買える商品」から、「ここでしか買えない特別な商品」にしたのです。その結果、多くの企業から取り組みの話が舞い込むようになりました。
ファミリーマート社からオファーをいただき、監修商品の販売が決まり、今年で監修をはじめて7年目となります。また、百貨店から「販売できませんか」とオファーをいただき、松屋銀座と池袋の東武百貨店に毎日数量限定でガトーショコラを卸しています。
そして今、さらなるブランドの成長に向けて思い切った展開にも着手していますが、それは次回お伝えしたいと思います。
こうした販路の見直しにおいて、私が意識してきたのは、「未来のお客様に出会うこと」。
一般的なマーケティングのセオリーでは、既存のお客様を囲い込み、熱心なファンを作っていくことが大切と言われますが、私の考えはちょっと違います。それよりも「価値を提供し続ける」ためには、むしろ新しいお客様と出会うことが必要だと考えています。
たとえばケンズカフェ東京では、若手女性タレントをフリーペーパー「ジェイジー」の広告に起用したり、WEB上でのダンスコンテスト、フォトコンテストを主催したりもしています。社会貢献的な意味もありますが、いずれも若い世代が将来お客様となってくれたら、と思ってのこと。一見すると遠回りに見えるかもしれませんが、将来を見据えて種を蒔いておくことが、ブランドの行く末を左右すると考えています。
「イノベーションのジレンマ」とも言われますが、過去の成功体験があると、ついそれに縛られて既存のやり方を継続したくなるものですが、守りに入ってしまえば成長はそこで終わり。常に見直しを図り、ブランドの鮮度をキープし続けるからこそ、ブランドの価値を確立できるのです。
締めくくりとなる次回は、「外的な環境の変化を乗り切るために必要なこと」についてお伝えします。