生体反応計測のマーケティング・リサーチへの応用
マーケティング・リサーチにおいてよく用いられる生体反応計測手法を図表2にまとめました。

比較的短時間の無意識的な反応の計測には、脳波やアイトラッキングがよく用いられています。特に脳波については、近年、商品の購入や動画の視聴など、実際の行動との整合性に関する検証や行動予測についても研究が進んでいます。多くのアイトラッキング機材は対象者が動いていても計測することができるため、模擬店舗や会場で実際にタスクを行っている状態の計測に適しています。
これらの計測手法は、それぞれ計測対象や計測機器が異なっているだけでなく、取得できる指標や解析結果にも特徴があります。そのため、目的や環境に合わせて適切な手法を選択することが大事です。たとえば、アイトラッキングでは「どこを見ていたのか」は精緻に取得することが可能ですが、刺激がどのような感情につながったのか、ストレス要因となったのか、といった分析が必要な場合は、表情解析や皮膚電気活動のほうが向いていることもあります。たとえば、発汗指標は刺激から数秒経ってから反応を示し、さらに長い時間をかけて減衰しますが、脳波の場合はほぼすぐに反応を示します。生体反応計測では、これらの特徴を把握した上で実験計画を立てて計測を行います。
事例:記憶に残る刺激の判別モデル構築
この研究では、広告のクリエイティブが見た人の記憶に残るかを、生体反応計測を用いて判別できるのかを検証しました。対象者に動画を見せながら、脳波や心拍を計測し、その動画を覚えていたか1週間後に聴取しました。分散分析の結果、知覚や意識に関係があるとされる脳波・ガンマ波が、動画を覚えているかどうかに関係があることがわかりました。
また、記憶スコアを予測する際に、脳波と心拍変動を組み合わせたモデルのほうが、脳波のみを用いたモデルよりも高い精度を示しました。このような実験をアンケート調査のみで実施する場合は、視聴後インタビューで各シーンの印象を聴取するといったことを行っていましたが、この方法では調査に時間がかかるだけでなく、どの指標が記憶に影響があるかの定量把握が難しくなります。まだいくつか課題はありますが、複数の生体反応から広告が記憶に残るかを精度よく予測できれば、調査時間の短縮やより定量的に広告を評価することが可能になることが期待できます。
実験計画を立てる際には、計測手法以外にも、計測対象とする行動(タスク)と、計測環境について検討する必要があります。多くの計測機器は、いわゆる実験室的な環境で、タスク以外の刺激が最小限となるような状態で使用されることが前提となっていますが、マーケティング・リサーチの現場では多くの場合、より現実的な環境で計測することが求められます。たとえば、実際の店舗でのお買い物行動を計測する場合や、テストコース等で車を運転する場合などでは、動的な環境で計測機器が利用可能であること、ノイズがどれだけ発生するか、それが解析結果にどのような影響を与えるか、といった項目について、事前に小規模な実験を行って検証しておくことが推奨されます。