顧客の認知プロセスを可視化し、マーケティングに応用
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは檀教授とIMJそれぞれの専門領域についてお聞かせください。
檀:中央大学の応用認知脳科学研究室で「人の認知メカニズム」をテーマに研究を行っています。最近は脳科学の社会実装を目指し、企業との共同研究を通じてニューロマーケティングの分野にも力を入れているところです。具体的にはサイコメトリクスという手法を用いて顧客が購入に至る動機や認知的プロセスの概要を可視化し、マーケティングに応用しています。
IMJ:IMJは創設から約25年間、デジタルマーケティングの黎明期から現在に至るまで多くの企業を支援してきました。2021年10月にアクセンチュアと合併し、IMJがこれまで培ってきたコンテンツをつくる力と、アクセンチュアの持つコンサルティング力のシナジーによって、ビジネスの上流から施策の実行までEnd to Endでお客様のデジタルマーケティング業務をサポートしています。
とりわけSNS領域は弊社の得意分野です。運用にとどまらず、戦略から一気通貫して支援を行っています。大手BtoC企業への支援を主としており、IMC的な統合マーケティングの一環としての戦略設定・運用実行も強みです。ありがたいことに、10年以上SNS運用支援を継続させていただいているお客様もございます。
「非言語情報」が欠落するSNS利用時の注意点
MZ:脳科学の観点から、SNSコミュニケーションにはどのような特徴があるのでしょうか。
檀:SNSにおけるコミュニケーションの特徴として「非言語情報」が決定的に欠落していることが挙げられます。SNSでは何でも伝わりそうに感じられますが、実はそうでもないのです。
たとえば対面で会話をする場合、相手の表情などから「自分はつまらないことを言っているかもしれない」「相手が自分の話に乗ってきているかもしれない」といった非言語情報を得られますよね。SNSではそうした言外の情報が圧倒的に乏しく、1枚のフィルターがかかったような状態と言えます。
またSNSでは非言語情報の少なさから伝えたことに対するフィードバックがかなり薄く、あるいは逆に誇張されてしまうこともある。つまりコミュニケーションにおける感情の制御が働きにくくなるのです。これは“ほろ酔い”の状態にとても似ています。
アルコールは神経活動全般、特に脳の抑制系に作用する物質です。通常は前頭前野の「GABA(ガンマアミノ酪酸)」という神経伝達物質が脳のニューロンを抑制し、感情の暴走を抑えているのですが、アルコールはこのGABAの働きを妨げてしまう。その結果感情が制御しにくくなるのですが、SNS上でコミュニケーションを行う人の脳活動もそれに近しいものがあります。
IMJ:檀教授のお話は、企業がSNS上でコミュニケーションを行う場合も非常に重要な観点になってくると思います。SNSコミュニケーションでは情報の発信方法を誤った場合、誤解や誇張が生じ“思いがけない炎上”のリスクを避けられません。一方で、非言語情報を補いユーザーに寄り添うことができた場合は、企業へのブランドラブを向上させる可能性もあります。つまり、消費者の脳状態を常に意識し、発信する言葉や情報を慎重に選ぶことが重要なのです。