データはありながらも施策の再現性が低い原因
「こうしたCRM戦略を実行するにあたっては、最初からうまく進めるのはなかなか難しいと感じる」と田村氏。それを受け、濱嶋氏はKFCで当初抱えていた課題に触れた。
一つは、社内でデータが散在していたことだ。2019年11月時点でも前述のデジタルアセットはあったものの、各サービスで取得するIDはバラバラな状態だった。利用されるサービスごとで別のIDが発行されている場合、一人の顧客が複数のサービスを利用していても社内としては別の顧客としてしか認識することができない。
分析においても、各部門が組織内で必要なデータのみしか分析しておらず、部門ごとに見ているデータ、見ていないデータが存在しており、データ同士の関連付けができていなかった。
「たとえば、新商品の施策の結果を経て、次の新商品の施策をどうするか戦略を練る際に、データのフル活用ができていませんでした。成功したとしても、再現性が低い状態が見てとれました」(濱嶋氏)
こうした背景があり実行されたのが、データを有機的につなげることを目的とした今回のプロジェクトだ。濱嶋氏は取り組みを大きく四つに分けて紹介する。
まず一つは、バラバラな各サービスの顧客IDの統合だ。二つ目は、データを集約、複合的に利用し、顧客理解の解像度を向上すること。顧客がどのような購買単価、購入頻度でサービスを利用しているのか、理解を深める狙いだ。三つ目は、データの可視化。多くのフランチャイズや、エグゼクティブに向け、それぞれに適したレポートを可能にする。そして四つ目に、データ起点でのマーケティング施策の実行と、実行した結果を検証するプロセスの確立だ。KFCでは課題の解決に向けてこの四つに取り組んできた。
データ活用の価値は「勝ちパターンの蓄積」にある
「そもそも、なぜそういったデータ活用が必要なのか」を田村氏が尋ねると、濱嶋氏はその理由を「仮説検証を通じた勝ちパターンの蓄積」だと答えた。
「従来では、新商品や定番商品のキャンペーンを行う際に、それまでに培った感覚、経験に基づく勘や、成功体験を軸に、同じような施策、方法を繰り返して成功体験を再現しようとするケースが結構ありました。しかし、原因が不明確なまま、結果が芳しくないことも当然あります。
そこで、感覚だけを理由とした施策ではなくて、KFCのIDベースで行動データもしくは施策の結果データの統合を行うことで、仮説検証を通じた勝ちパターンの蓄積をしたいと考えました」(濱嶋氏)
上記の実行の流れとして、まずデータを集めて分類し、潜在ニーズの発見や仮定の設定を行う。次に、店舗や期間を限定したテスト施策を実施。そして、そのテスト結果と商品特性やターゲットを基に売上などのKPIを設定し、本番の施策を実行する。施策後には蓄積したデータを基に効果検証、分析、可視化を行い、次の改善案の洗い出し、KPIに対する最終評価を決定。この結果をCDPに戻すことにより、データの精度を高める。
この勝ちパターンの蓄積によって、蓄積した勝ちパターンの中から、再現性が高いものを抽出し、さらに再現度を上げていくことができる。濱嶋氏はその実現のために、データ活用の必要性を社内に向けて説明していったという。
CDPはカスタマージャーニーすべてとつなげる
ここまでの紹介からも、KFCのプロジェクト内で大きな役割を担っているとわかるCDP。田村氏は次に「CDPの立ち位置」について深掘りした。濱嶋氏はKFCのカスタマージャーニーマップを基に説明する。
CDPの立ち位置は、上図のようにカスタマージャーニーの各フェーズそれぞれを支える基盤となっている。各フェーズにおいて実施した施策の結果を表すデータは必ずCDPに送られ、分析・分類される。さらに、その結果を基に施策を繰り返すという仕組みだ。