サブスクの利用に至る5つの動機
――若年層ほどサブスクを好むということですが、彼らにはどういったインサイトがあるのでしょうか?
若い世代がなぜサブスクを支持するのかを分析していくと、次の5つの動機が見えてきました。
1つ目は、ミニマル志向です。つまり、「モノを持ちたくない」という動機があるのだろうと考えられます。これまでに実施した他の調査でも、若年層ほど「何を持っているか」よりも「何ができるか」に価値を置く人が多いという結果が出ています。一般消費財、耐久財、ライフライン、流行商品、生鮮食品、健康食品など今回調べたすべての分野で、40歳以上の層に比べて39歳以下はサブスク支持率が高く、「サブスクは自分の暮らし方に合っている」と回答した比率も、40歳以上が13%に対して、39歳以下は28%と約3割に上っていました。
次に注目すべきは、可処分所得による支持率の違いです。1ヵ月の可処分所得が3万円を超えてくると、サブスクの支持率が高まるという傾向があり、その背景には「手軽に生活をアップグレードさせたい」というニーズがあると考えられます。これが、サブスク利用の2つ目の動機です。
今、世の中には様々な新商品や新サービスが溢れており、常に新しい選択肢が提案されています。その中で、普段は選ばないような新しいものを利用してみたい、普段よりランクアップした商品を利用してみたいという意向が、可処分所得が3万円以上になると有意に高くなるというデータがあるのです。「いきなり新商品を購入するのはハードルが高いから、サブスクで少し試してみようかな」という心理が働いているのでしょう。そのような動機でサブスクを利用している人たちは、サブスクをやや趣味性の高い消費行動として捉えており、余剰消費として可処分所得の中から消費行動を起こす傾向にあります。
3つ目に見えてきたのは、「テンポラリー消費」です。テンポラリーには、一時的、暫定的などの意味があります。たとえば、未就学児のいる家庭では、子育ての中で一時的に必要となるモノやサービスがたくさんあります。そうした「今だけ」の需要を満たすために、サブスクを利用したいと考えるようです。この人たちにとっては、「一度加入したら、それ以降その商品やサービスについて考えなくてもいい」という点がサブスクの魅力となっています。
4つ目の動機は、「レビュー」と呼ばれるものです。結婚、進学、引っ越しなど何らかのライフイベントを控えている人は、比較的サブスクを支持しやすい傾向にあります。彼らにある動機が「生活の見直し」、つまり「レビュー」です。
ライフイベントをきっかけに、自分の生活を見直すようになり、それに際して「サブスク」という選択肢に関する興味関心が高まるという流れで、たとえば、「住宅購入」というライフイベントを控えた人は、健康食品のサブスクに対しても関心を高めることがわかっています。ここで重要なのは、家族ではなく自分自身のライフイベントであるということ。データを見ると、家族の結婚や就職といった自分以外の他者のライフイベントにおいては、サブスクの支持は高まっていません。
5つ目は、他の4つと毛色が異なるのですが、「オープン」という動機です。これは、自分の消費行動の中に1つでもサブスクが入っていると、それ以外のサブスクに対しても「オープン」になるということです。『MarkeZine』第73号では、デジタルエンタメコンテンツは、音楽/マンガ/ゲーム/動画と、複数のカテゴリの併用が進めば進むほど、エンタメに費やす可処分時間の総和が増えていくことを解説しました。これと似たような傾向がサブスクでも見受けられます。1つもサブスクを利用したことのない人は、サブスクに対する疑いや不安がありますが、1つでも利用すると扉が開き、その後どんどん利用するようになっていくのです。
――人によっては5つのうち複数の動機が重なることで、サブスクの利用に至ることもあるのでしょうか?
もちろんそうです。これらからわかるのは、「サブスクに関心がある」と一口に言っても、そのインサイトは一人ひとり異なっているということです。よって、取るべきアプローチやコミュニケーションもまったく違ってきます。
ひとつ、調査会社のデータ*2からおもしろい事例をご紹介します。これは、ビッグデータの情報からリモートワーク中の30代男性が花のサブスクに申し込むまでの経緯をたどったものです(図表2)。
この男性は、リモートワークによって自分の部屋にいる時間が突然長くなり、また、仕事中のビデオ会議でいろいろな人の部屋の様子を見る機会も増えました。すると、自分が他人にどう見られるかという観点からインテリアに関心を持ち、情報を検索するように。そこから「部屋に花を飾ってみよう」と思い至り、花のサブスクを複数検索。最終的には申し込むまでに至りました。これは、「アップグレード」の動機を持って、サブスク利用を開始した例と言えるでしょう。
