組織変革を進めるダイナミック・ケイパビリティ
続いて、一橋大学の藤川准教授と小樽商科大学の近藤教授他によるDXに関する2本の論文をご紹介します。1本目の論文(概念アプローチ)は、組織がDXを進めるためにはどのような能力が必要なのかを考察しています。2本目の論文(事例アプローチ)は、実際にDXを行った組織の事例研究となっています。
近年はDXの重要性がさまざまなところで強調されるようになってきましたが、他方で実際にDXを進めようとして挫折する企業もたくさんあります。それでは、組織がDXを進めるためには、どのような段階を踏むのが適切なのでしょうか。またそれぞれの段階において、さらにDXを次の段階に進めるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。
この論文では、従来のDX研究やサービス研究などの領域で蓄積されてきた数多くの研究から知見を得て、組織のDXが進むプロセスを「社外—社内」と「プラットフォームがある—ない」の2つの軸を組み合わせて、以下のように整理しました。以下の図は、理論編中に図5「デジタル・トランスフォーメーションのダイナミック・プロセスモデル」として収録されているものです。

このように、「概念アプローチ」では「社内—社外」「プラットフォームあり—なし」の2軸から構成される4つの象限を、左下の「スタンドアローン」から右下「社内共有プラットフォーム」、または左上「企業間情報/データ共有」を経て、最終的に右上「デジタル・プラットフォーム・エコシステム」に至る2つのルート(図中の「パスⅠ」「パスⅡ」)が存在することを示しました。また、それぞれの移行において必要とされる組織の能力(ケイパビリティ)にはどのようなものがあるのかを、先行研究に基づいて明らかにしています。
「事例アプローチ」では、上記の「パスⅠ」および「パスⅡ」の経路を経て組織変革を進めた実際企業の事例を詳細に検討し、「概念アプローチ」で示された能力が、現実の組織変革のプロセスにおいて実際に必要であったかどうかを検証しています。
藤川准教授と近藤教授によるこれらの2つの論文は、今後DXを進めようとしている企業、またはすでにとりかかっているが、さらにどのようにDXを進めていくかについてヒントがほしい企業や経営者にとって、すばらしいヒントを提供してくれる論文です。組織やビジネスのDXに悩む方々には、ぜひご一読をお勧めしたい論文です。
