4つの論文から価格のあり方とDXを考える
今回はデジタル環境下における価格のあり方とDXについて考えてみましょう。この連載では毎回さまざまな角度から今後のマーケティングについて議論が続けられていますが、マーケティングの4Pから考えた場合に、価格についての議論があまり行われてきませんでした。このことが、今回価格を取り上げた理由です。近年はデジタル環境下の価格マネジメントについて、さまざまな研究が行われ始めています。今回はこのような中から、デジタル環境下の価格全般に関するトレンドについての研究、およびサブスクリプション・サービスの利用者の顧客満足に関する研究をご紹介します。
またデジタル環境下のビジネスが向かう方向として、DXに関する研究や提言が近年豊富に蓄積されています。今回はDXに関する最新の研究成果を2つご紹介します。
価格戦略の系譜:インターネットがもたらした影響とは?
インターネットが私たちの日常生活に入り込んで来たのは1990年代の半ば前後からですが、この頃からマーケティングにおける価格戦略にも、インターネットやデジタル化がさまざまな影響を及ぼしてきました。
山形大学の兼子准教授と学習院大学の上田教授による論文「プライシングの系譜」では、価格に関連するさまざまな概念を整理し、従来の諸研究を手際よくまとめています。たとえば表1「Tellis(1986)の価格戦略の分類」では、さまざまな価格戦略の分類を示しています。ここでは消費者の特性と企業の目的に応じて最適な価格戦略が9つのカテゴリーに分類されており、たいへんわかりやすく、実践的な分類となっています。
同じ論文の図2「価格戦略の系譜」では、インターネットの普及がもたらしたEC市場やクラウド・コンピューティング、IoTなどのデジタル化の進展にともなって、価格戦略がどのように変化してきたかが一目でわかるように整理されています。この図によれば、2010年代に入ってデジタル財のサブスクリプションが導入され、さらに2015年以降には非デジタル財にもサブスクリプションが導入されてきたこと、また最近のAIを活用したダイナミック・プライシングは2015年以降に導入されていますが、AIを用いないダイナミック・プライシングは1990年代半ばにはすでに導入されていたことがわかります。近年のサブスクリプションの普及の背後には、製品を所有するということに関する消費者の考え方の変化があることを指摘しています。
ダイナミック・プライシングとは、さまざまな条件や要因に応じて柔軟に価格が変更される仕組みであるのに対して、サブスクリプションとは一般には製品やサービスを定額で一定期間使用する仕組みを指しています。つまり前者は価格が変動し、後者は価格が固定されます。一般にはこのようなイメージが持たれていますが、兼子准教授と上田教授は、今後はこのようなサブスクリプションとダイナミック・プライシングが組み合わされた形のサービスが登場するであろうことを論文の最後で暗示しています。このような実践は、ビジネスの面からも学術的な面からも、とても興味深い可能性を秘めています。