新たな喫食シーンの創造を通し、成長拡大を遂げてきた「1本満足バー」
アサヒ食品グループが2006年から発売している栄養サポート食品「1本満足バー」。「手軽に栄養が補給でき、おいしさと食べ応えのダブルの満足感を楽しめる」という商品特長から、ビジネスマンを中心とする忙しい人々に広く支持されている同社の強力ブランドだ。
発売より今日まで、テレビCM、新聞広告、OOH、SNS広告など多数のメディア接点を取り入れ、広くマーケティングコミュニケーションを展開してきた「1本満足バー」だが、マーケティング戦略の基本には「忙しい方の日々の多様な喫食シーンを提案し、商品と生活者との接点を増やす」という狙いがある。
たとえば、従来のラインナップにあったシリアルシリーズなどに加え、2018年に発売されたプロテインシリーズは、スポーツ・フィットネスなどの喫食シーンや、日々の食生活で手軽にタンパク質を取り入れたい人々をターゲットに新たなユーザーを獲得し、人気シリーズとして定着している。
こうしたマーケティング戦略について、同社で多様な商品の広告戦略やメディアプランニングを担う、コンシューマ事業本部 マーケティング三部 副課長の笹田千恵子氏は、次のように述べる。
「プロテインシリーズの発売により、従来の間食・おやつシーンに加え、スポーツ・フィットネスシーンという新しい喫食シーンの創出につながり、ブランドとしてもひとまわり成長することができました。最近ではコロナ禍も相まって、健康志向の高まりが加速しているので、このプロテインシリーズは特に力を入れてラインナップ強化や広告コミュニケーションを行っている状況です」(笹田氏)
新たな切り口として「ゲーム」に着目した理由
そんな「1本満足バー」のさらなる拡大に向けて、同社が次に着目したのが「ゲーム」だ。唐突なようにも見えるが、なぜ「ゲーム」だったのだろうか?
「今、ゲーム市場は大きな盛り上がりを見せています。コロナ禍で家にいる時間が増えたことも一因にあると思いますが、eスポーツ人口が急増しているという話もあり、熱い市場として以前から注目していました。
そのような中、我々が実施したある調査結果から、多くのゲーマーがゲーム中に何らかの間食をしていることがわかったのです。また、その間食で食べられているのはチョコレートやスナック菓子、カップラーメンなどが多いというデータもあり、“健康に悪いことを少なからず気にしている”というインサイトがあるのではないかと想像しました。『1本満足バー』は片手で食べられるので、ゲームの邪魔をすることなく食べられて、かつ、栄養も摂れる。これは新たな喫食シーンの創造に繋がるのではないか、と思いました」(笹田氏)
ゲーム市場の拡大については、驚くべきデータがある。日本の総人口のうち60%以上がゲーマーである、という状況なのだ。
現在、APACのオンライン人口(25.7億人)のうち約62%がゲーマーであるとされており、そのAPACで日本のゲーム市場は中国に次いで大きなものとなっています。さらに、日本の総人口(7,560万人)のうち、実に60%以上がゲームをプレイしているというと、ゲーマー=オタクというイメージが過去のものであることがわかるのではないでしょうか。
――MarkeZine『【日本の総人口の60%以上がゲーマー】「オタク」のイメージはもう古い!全マーケターが知るべきその実態』より
ゲームの高関与層にアプローチするため、同社が選んだプラットフォームは「Twitch」。広告の展開先を選定する際、笹田氏は、その媒体にしかない独自性とターゲットの獲得効率、そして「1本満足バー」との親和性を重要視しているという。
「多くのゲーム配信チャンネルを有するTwitchは、ゲーマーから広く支持されています。配信者と視聴者のエンゲージメントが高いという特徴もあり、ゲームの高関与層にアプローチするには効果的だと考えました。さらに、Twitchのユーザー像は、“元気、遊び心、親しみやすさ”という『1本満足バー』のブランドイメージともマッチしていると感じました」(笹田氏)
単発ではなく、中長期的にキャンペーンを設計
Twitchでの「1本満足バー」のキャンペーンは、約1年にわたり、大きく3段階に分けて実施。キャンペーンの設計は、Twitchの担当者からアドバイスを受けながら、共に議論する形で進めていった。まずは、認知拡大を図りながらユーザーの反応を確認するため、トライアルとして動画広告を展開。ここでは、他のデジタルメディアで用いている広告素材を流用した。ゲームに特化したクリエイティブではなかったが、想定以上の反応があったという。
次に、「ゲーム×1本満足バー」のブリッジを作ることを目的に、インフルエンサーとのタイアップ施策を企画。ゲーム実況者の「えどさん”」を起用したライブ配信を実施した。
「えどさん”の明るくてユーモアのあるお人柄や、視聴者と一緒にゲームを心から楽しんでいる様子が、『1本満足バー』のブランドイメージと重なりました。ぜひえどさん”に『1本満足バー』を食べながらゲームを楽しむという体験をしていただき、リアルな声を視聴者のみなさんに届けてもらいたい。そう考え、依頼させていただきました」(笹田氏)
さらにその後、バナー広告も展開。「ゲーム×1本満足バー」という新たな喫食シーンの創造に向け、Twitchの担当者と数字の振り返りを行いながらPDCAを回し、中長期的に価値提案を行っていく考えだ。
【当日のアーカイブ映像】視聴者と一緒に“タイアップ企画”を楽しむ
この一連のキャンペーンで注目すべきは、やはり、えどさん”を起用したライブ配信施策だ。配信では、冒頭で「1本満足バー」をえどさん”が実食しながら紹介。その後のゲーム配信では、えどさん”がゲームで負けると「1本満足バー」の動画広告が流れるという設定のもと、視聴者と一緒に“タイアップ”を楽しむ形でライブ配信が行われた。
「えどさん”は、冒頭の商品紹介も15分ほどかけて丁寧に行って下さいました。実は、これもゲーム配信中の動画広告の仕掛けも、すべてえどさん”がご厚意でやってくださったことなんです。私たちは企画の段階から、なるべく広告色が濃くならないようにと意識していました。あくまで、えどさん”のゲーム配信がメインとしてあり、えどさん”と視聴者の皆さんにとってこのライブ配信が楽しい体験になることを一番に考えていました。えどさん”はこれをくみ取った上で、商品を気に入って紹介してくださったので嬉しかったですね」(笹田氏)
動画広告の視聴完了率は87%超!広告が受け入れられるカルチャーを実感
広告の時間が長いと、少なからずネガティブな声が出てきそうだが、そんな懸念をよそに、視聴者からは好意的なコメントが多数寄せられた。笹田氏とともにキャンペーンを担当した同部門 主任の古橋直樹氏は、当時の状況を振り返り「意外だった」と話す。
「早くゲームの配信をしてほしい、などのコメントが出てくるのではと思ったのですが、寄せられたのは『コンビニ行って買ってこようかな』『3本買ってきました!』など、好意的なコメントばかりでした。配信者と視聴者の近さ、コミュニティの温かさといったTwitchの特長を実感し、この媒体を使ってよかったと思いましたね」(古橋氏)
【キャンペーン結果】
インフルエンサー配信/総視聴数:59,358、チャット数:4,577
動画広告/視聴完了率:87.30%
結果、視聴者数、視聴時間、チャットの数とその内容など、定量的にも定性的にも高い成果を挙げることに成功した同社だが、この成功にはTwitchならではのカルチャーもリンクしているようだ。
前提として、Twitchはコンテンツのほとんどが生配信で、広告はスキップできない設計になっている。また、多くのユーザーが「投げ銭」や「サブスクライブの視聴」といった形で配信者を支援しており、配信者を“応援する”文化がコミュニティに根付いているのだ。
Twitchでは、多くのユーザーがタイアップ企画の視聴・参加を通じて、“支援”“応援”の感覚を得ている。実際に、えどさん”とのライブ配信を経て、古橋氏は「広告は嫌われるもの」という概念が覆される感覚があったという。
ゲーム中の間食で第一想起を。今後も中長期的に施策を展開
メーカー、インフルエンサー、視聴者の三位一体でライブ配信を実施、加えて継続的に広告を展開、と約1年にわたりTwitchをマーケティングに取り入れてきた「1本満足バー」だが、笹田氏はこの一連の取り組みから2つの気づきを得ている。
「Twitchには非常に質の高いユーザーがいることを実感しました。ライブ配信でのエンゲージメントの高さ、商品を購入してくださるほどの関与度の高さを生で感じましたし、『1本満足バー』の新しいユーザーとしてもポテンシャルが高いだろうと、考えています。
もう1つは、ゲームと『1本満足バー』の相性の良さです。新しい喫食シーンとしてしっかりフィットすることを確認できました。時間はかかるかもしれませんが、ゲーム中に食べるものと言えば『1本満足バー』と想起してもらえるようになるまで、今後も様々な施策にチャレンジしていきたいですね」(笹田氏)
今回、新たな喫食シーンとしてゲームシーンを取り入れ始めた「1本満足バー」だが、これ以外にもまだまだ喫食シーンを広げていける切り口はある。その展開がゲーム市場への拡大で止まることはない。
「『1本満足バー』は、忙しい方の元気と栄養補給をサポートする食品です。これまでに確立してきた喫食シーンやユーザーも大事にしながら、新たな喫食シーンを創造していきたいです。ブランドの遊び心を感じて少し気持ちが明るくなったり、元気が出たり、次も頑張ろうと思えたり。そんなふうに元気を与えられるブランドに成長していけるとよいですね」(笹田氏)
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