「本音の世界観」を重視
テレビショッピング風の動画と同時に制作した店舗への来店を促す広告動画も約18万6,000回再生(同日時点)され、来店者増も達成できたという。
来店促進動画を制作するにあたって意識したのは、北海道市の会場のリアルな雰囲気を伝えることだ。西本さんは「完成されたCMを作るほどの予算と時間がないからともいえるが、何よりもリアルイベントの『本音の世界観』を出すことに重きを置いた結果」と動画の狙いを解説する。
同年末の「歳末大北海道市」でも動画広告を展開し、タハラダの2人が催事場を回る様子を映し出した。
2022年のバレンタインデーの催事「ショコラプロムナード2022」の広告動画も同様に、タハラダの2人が催事場を歩きながらお薦めの商品を紹介している。
大丸松坂屋百貨店のYouTubeでは、商品をきれいに見せる動画だけでなく、リアル店舗の空気感や社員のキャラクターを活かした動画で消費者のエンゲージメントを高めているのだ。
大切にしている「人が中心」の考え方
店舗を起点としたデジタル活用により、時間や空間を超え新たな体験価値を提供する商業モデルへ変革します──これは、同社の親会社であるJ.フロント リテイリングの中期経営計画に盛り込まれている一文だ。西本さんは「百貨店のモノの良さは多くの方に理解いただいていると思う」としながら「あとはモノをどう紹介していくか。デジタルでも人の魅力で伝えていくことが大切」と力説する。
人の魅力を前面に出したデジタル戦略は、大丸京都店だけにとどまらない。大丸下関店では、ホームページ上で「ショップブログ グルメ王子チャンネル」を公開。社員が「グルメ王子」を名乗り、同店で取り扱うグルメの魅力を伝えている。担当する社員は、店舗でお客さんから声をかけられることが増えたという。

大丸下関店のホームページで公開されているショップブログ グルメ王子チャンネル
また大丸札幌店では2021年7月にオンラインでのライブショッピングも実施。百貨店の強みである「リアル店舗での双方向のコミュニケーション」による温かみを、オンライン上でも感じられるよう工夫を施している。
「大丸・松坂屋では人の力を活用した体験価値の提供を中期目標に掲げています。これからも一方通行のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションを実現していきたいです」(西本さん)
デジタルマーケティング戦略が花開きつつある老舗百貨店。たとえデジタル上であっても、長年培ってきた人の魅力・温もりが失われることはないだろう。