共通項は、顧客に向き合うこと
MarkeZine編集部(以下、MZ):本連載は、これまであまり語られてこなかったPMFの過程を、手触り感あるストーリーで伝えていくために開始しました。8社に取材を終えましたが、ここで、PMFに必要なアクションや考え方について、振り返ってみたいと思います。
取材に協力いただいた企業
FLUX(パブリッシャー向けのバーティカルSaaS「AutoStream」)
HERP(スクラム採用プラットフォーム「HERP Hire」とタレント管理プラットフォーム「HERP Nurture」)
プレイド(CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」)
コドモン(保育業務支援システム「CoDMON」)
タイミー(スキマバイトサービス「タイミー」)
BEARTAIL(ペーパーレス経費精算システム「レシートポスト」)
コミューン(カスタマーサクセスプラットフォーム「commmune」)
サイカ(オンライン広告・オフライン広告の効果分析ツール「ADVA MAGELLAN(アドバ マゼラン)」)
※本記事で言及する順。敬称略(以下同)
田中:8社に共通しているのは、どこかのタイミングで徹底的にお客さんと向き合っていたということだと思います。
ひとつはFLUXのように参入前に綿密にリサーチし、顧客に向き合うケースです。CEOの永井さんは取材で、国内外60社にヒアリングしたと話していましたよね。業界の事情を知り尽くした人が創業メンバーにいるなど、最初から解像度を高める手段がある場合に、有効な方法だと思います。
栗原:一方、他の7社はいったん走り出した後、改めて深く向き合う時間を取っていました。リリースしたプロダクトが顧客に刺さらず、「お客さんにとってどうなのか」というのを考え始めてから、PMFに到達しています。
稲田:『アントレプレナーの教科書』で提唱されている顧客開発モデルを軸にすることは、PMFの鉄則として言えることだと思います。顧客開発モデルのほうが、MVP(Minimum Viable Product)モデルよりも良くも悪くも荒削りで洗練されていないが故に、スタートアップにとっては腹落ちしやすいんですよね。
価値訴求の方法を変えることでPMFへ
稲田:HERPは「スクラム採用」というタグラインを作り、ポジションを確立したことがターニングポイントでした。本来のマーケティングっぽいPMFですよね。
栗原:無料でのテスト導入は進んだ一方で、「どう使いこなせばいいかわからない」というオンボーディングに課題を抱えた顧客が一定数存在していたのでしょうね。コンセプトを作って「採用はみんなでやるものなんだ」というメッセージがスムーズに伝わるようになったことで、オンボーディングができたというのはありそうです。
稲田:ちゃんと概念形成をして市場を作っていますし、逆に社内のオンボーディングへの組織全体の志向性、ベクトルもそろったということで素晴らしい例ですね。
それで言うとプレイドも、ダッシュボードのUIを変更したら顧客の反応が変わった、という話がありました。ダッシュボードはユーザー行動をサマライズするものだという通説に反して、あえてサマライズせず、ユーザー単位で見せたことで、価値が伝わったというケースです。これは一見すると全体をサマライズするダッシュボードを見せることが通常というこれまでの見方・考え方の逆をいっており、企業やプロダクトのフィロソフィーがよく体現された施策だと思います。
田中:まず「ユーザー単位で分析しよう」というコンセプトに独自性があった。どうすればその価値が伝わるのか、いろいろとトライする中で良い方法が見つかった、ということなのかもしれませんね。これも、エンドユーザーの理解に力を入れたからこそ見えたことです。さらに付け加えると、「お客さんの反応良かったよね」で終わらせず、突き詰めてプロダクトに落とし込んだのがすごいところだと思います。
外部環境の変化を捉えるのも重要
栗原:コドモンは受託開発から始めたケースでした。お客さんの反応が良かったからプロダクト化したものの、最初はなかなか売れなかった。それをチューニングしつつ、補助金という時流の後押しを最大に活かすことで、PMFしていました。
稲田:外部環境を捉えてGTM(Go to Market)した、教科書的なケースです。代表取締役の小池さんはチューニングの過程で、保育施設に出向いて園長先生や保育士さんと会話したり、現場の観察をしていたと話していました。最初はどちらかというと、その先にいる保護者側に目線がいっていたようですが、意思決定者、エコノミックバイヤー(決裁者)、エンドユーザーに的を絞って向き合ったからこそ、PMFに到達できたという側面もありそうです。
田中:タイミーは2度のPMFについて聞きましたが、2回目については、コロナ禍による外部環境の変化を捉えたものでした。飲食店が休業し人手が余ってしまった一方、ECの需要が急増し、物流の人手不足が深刻化していた。これに合わせて営業部を「飲食」「小売」「物流」に分け、それぞれの顧客の課題に合わせて提案をしたそうです。ECの利用急増もコロナ後にどうなるかわからないため、恒常的に人材を雇用するのは躊躇われるなか、スポットで入るというタイミーのサービスは、ちょうどよかったのだろうと思います。