PMFに近道はあるか?まずは商談してみるのも有効
栗原:PMFに必要なアクションに話を戻しますが、最近当社で、新規事業のマーケティング組織の早期立ち上げを数件支援しています。基本的にPMFしていない状況で動く中で、いろいろと学びがありました。
MZ:詳しく教えてください。
栗原:事前の調査でコンセプトやターゲットを決めるのはほとんど不可能に近くて、とにかくいったんリードを取る、商談してみる、そのうえで振り返りを高速化するというのが、うまくいきやすいということです。
リサーチもやるのですが、網羅性が出なかったり、本物の商談ではないので深いところがわからなかったりするので、商談をしながら「このセグメントは売れそうだな」とか「プロダクトにこういう機能が足りていないんだな」と気づいていくのが近道な気がしますね。
稲田:どこまで地図の解像度を上げるかという問題はありますよね。おそらく、地図の解像度を上げれば上がるほど、動き出しからPMFまでの時間は縮まるのですが、地図を作っている時間があったら他のことができるので、粗い地図でもまずは冒険に出てしまった方が、結果的にPMFを達成する時間が短いかもしれない。冒頭お話ししたFLUXくらいしっかりと調べきれるのは理想的ですが、例外かもしれません。
栗原:ターゲットを見つけて「これどうですか」と、紙芝居を当てに行くみたいなやり方もありますが、それもやはり“お勉強”の域を出ないところがある。LP作って、リード取って、商談して、というのを半年~1年、高速で回すというのは、良いやり方だと思いますね。もちろん、大企業では承認プロセスも複雑ですし、とりあえずリリースしてみました、が許されないところがあるので、難しいと思いますが……。
田中:逆にスタートアップは、誰かを説得しないといけないチェック&バランスがないので、自分で冷静にならないといけない面がありますね。
稲田:軽すぎる装備で冒険していないか、地図やコンパスをちゃんと持っているか、ということですね。人によって、メッセージが変わってきそうです。

8社への取材を振り返って
MZ:最後に本連載を振り返っての感想や、今感じているPMFに関するさらなる論点について教えてください。
田中:PMFのプロセスには共通点があって、それは「ちゃんとお客さんの話を聞く」というところと「課題を発見する」というところだと思っています。
私はVCとして起業家とかかわっていますが、事業を伸ばさなければという強いプレッシャーを日々感じている方々に「今はじっくりお客さんに向き合いましょう」とお伝えするのは勇気が要ることです。ですが様々な企業のPMFの過程を知り、必要なアクションだと確信したことで、迷いがなくなりました。
稲田:海外のPMFと日本のPMFには、やはり違いがあるということを感じました。PMFに関する情報は海外のものが大半ですが、外部環境や商習慣、課題となっている事柄が違うため「アメリカでこうだから日本でもこうだよね」とあてはめても、往々にしてうまくいきません。今回、日本におけるPMFの事例を蓄積できたことは、大変意義深いと感じています。
栗原:先日あるマーケターから示唆深い話を聞きました。特定のセグメントで1度PMFすると、マーケターはどんどんそのセグメント内の売上を最大化するためにオペレーショナルなことに忙しくなっていき、2度目、3度目のPMFをするための顧客開発をする時間がなくなる、ということが起こるらしいんです。採用もしないといけないですし、リード獲得もやらないといけない。だから、「この新しいセグメントちょっと売れそうだよな、PMFしそうだよな」と思っても、そこに踏み出せないのです。PMFを繰り返していくためには、やはり別部隊として事業開発部隊やセグメント発掘部隊を作るというのが必要な気がします。
MZ:取材に応じてくださった皆さま、そしてお三方、長きにわたりご協力ありがとうございました。
編集後記
本連載をお読みくださり、ありがとうございました。PMFはこれまで扱ったことがないチャレンジングなテーマであり、「MarkeZineでPMFを取り上げるの!?」と驚かれたことも度々ありました。しかし8社への取材を終えた今、PMFの知識はマーケターにとっても大変重要なものと感じます。
現状日本では、新規事業の立ち上げからPMFまでを経験しているマーケターの数は、それほど多くないのではないかと思います。その一方、顧客ニーズの変化や技術革新のスピードがますます速くなっていることから、マーケターが「PMFから外れてしまったプロダクト」や「そもそもPMFしていないプロダクト」を担当することになるケースは、今後増えていくかもしれません。そのような時に、PMFに関する知識を持ち、「マーケットニーズを満たすプロダクトで、正しい市場にいるかどうか」まで立ち戻って考え、アクションすることができれば、事業の成長に大きく貢献できるのではないかと思います。
本連載は今回をもっていったん終了しますが、MarkeZineでは今後もPMFに関する記事を取り上げていく予定です。また2022年9月、栗原さんが『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書』を翔泳社より刊行予定です。続報をお待ちください!
(MarkeZine編集部 蓼沼阿由子)