プライシングフローを組み立て、ダイナミックプライシングを実現する
具体的な例を見てみましょう。ホテル、劇場などの“稼働率型”ビジネスを営むA社を想定します。A社には土日に10,000円で販売している商品Xがありました。需要の高さに応じてうまく価格を変動させ、利益を改善したいところです。しかし、同じ曜日といっても週によって売れ行きはまちまちです。
そこで、「稼働率が30%を超えた場合、商品の価格を10%上げる」「利用日まで3日を切った場合、価格を12,000円に上げる」という二つのルールを設定しました。

このようにルールを決めておくことで、需要が低く稼働率が上がらない日には価格は低めに維持され、一方で需要の高い日には価格は自ずと高くなります。機会の見落としを防ぐだけでなく、予めルールがあることで日々の価格調整で悩む必要がなくなります。「価格をどうするか」ではなく「価格変更のルールをどうするか」に視点を切り替えるのがミソなのです。
実際には、ルール2つだけということはなく、より多くの状況を想定したルールを重ね合わせることで機能します。また、稼働率の閾値は30%でよいのか、価格変更幅は10%でよいのか、という条件設定にも検証と改善が必要です。
時間の経過とともに数値が変動し、価格に影響を与える指標は様々あります。上の例で見た稼働率に加え、在庫数や他の商品の売れ行き、競合価格、さらには天候やイベントまで多岐にわたります。
単純なルール、少ない商品数であればプライシングフローは手作業でも回せるかもしれません。しかし、より高度なルールを用い、刻々と変化する指標を常にウォッチして細やかに価格変更を行うには、「プライシングフローを回すことの自動化」が必要です。ダイナミックプライシングを実現可能にしているシステムはこうしたコンセプトで導入されています。
コロナ禍でも10%増収を実現──“京王電鉄バス”ダイナミックプライシングの成功事例
苦しい状況が続く交通産業において、京王電鉄バスは、ダイナミックプライシング導入を成功させた企業の一つです。
高速バスは時期による需要変動が大きい業界です。繁忙期は需要が集中し、「満席でのお断り」が問題になる一方、閑散期は、空席が目立つ便も少なくなく、稼働率をいかに平準化させるかが課題となっています。
京王電鉄バスは、以前より一部路線で変動運賃を採用し、座席予約システム上の価格を手作業で変更することで対応してきました。しかし、担当者が予約状況を逐一チェックし、その結果によって価格を変更するという作業負担は大きいものです。そこで、京王電鉄バスは、2020年12月から、ハルモニアが提供するダイナミックプライシングシステムを採用し、主要路線でのダイナミックプライシング運用を開始しました。
京王電鉄バスでは、ダイナミックプライシングを導入しなかった場合の推計収入に対し、数%から10%の増収効果があったといいます。こうした成果は紛れもなく素晴らしいものですが、取り組みの効果はそれだけではなく、価格戦略に携わる人材育成にもつながっています(参考:高速バスの収入10%増!「値付けテック」の正体/東洋経済plus)
同社では、過去の予約データ分析に基づいてシステム設定の精度を上げ、さらなる収益向上を目指し、改善を進めているといいます。ダイナミックプライシングシステムによる価格調整の自動化を実現し、仮説検証に取り組んでいる好事例と言えるでしょう。