屋台骨ブランドの「ルル」を3日間の研修で深掘り
MZ:研修の題材として風邪薬の「ルルAシリーズ」を選んだと伺いました。なぜこの商品を選んだのでしょうか。
河畠:ルルAシリーズは1951年に販売を開始したファミリーユースタイプの風邪薬です。風邪薬としては業界2位のシェアを占め「クシャミ3回ルル3錠」というキャッチフレーズに馴染みのある方も多いのではないでしょうか。有効成分を糖でコーティングした「糖衣錠」であるという特徴を備え、家庭の常備薬として幅広い世代の方に利用いただいています。

河畠:ポピュラーな商品とはいえ、薬はファンという概念から遠いカテゴリです。正直なところ、ルルAシリーズよりもファン像がイメージしやすい他のブランドはありましたが、弊社の屋台骨でもあるブランドを深く理解したいという思いからあえてチャレンジしました。
MZ:具体的にどのような研修を行ったのでしょうか?
廣田:ルルAシリーズ以外のブランドマネジメントや広告宣伝を担当されている計14名の方に参加いただき、初日を座学、2・3日目をワークショップ形式で実施しました。研修内容を企画するにあたり、河畠さんから「座学で終わらせるのではなく、体感できるプログラムに仕立ててほしい」という強いご意向をいただいていたんです。
座学ではファンマーケティングの基礎概論に加え、参加者の自分ごと化を促すためのトピックも用意。具体的には研修前に行ったルルAシリーズのファン調査の結果をシェアし、ファン像をよりクリアにイメージしていただきました。
2、3日目は参加者を3チームに分け「ルルAシリーズにとって理想的なファンとはどういう人なのか」「理想的なファンを育むために、どういうジャーニーをライフスパンごとに描くべきなのか」などについて議論。各チームでコンセンサスをとっていくワークショップを行いました。
感動的なストーリーから商品の価値を再発見
MZ:研修を通じて得られた知見をお聞かせください。
河畠:驚いたのは、事前のファン調査から感動的なナラティブストーリーがたくさん出てきたことです。これまでも購入経験者への調査・アンケートなどは自社で行ってきましたが、ファンを深掘りするような調査は初めてだったので、得られるアウトプットは全く違いました。
たとえば、ある方からは次のようなストーリーが寄せられました。
小学生ぐらいの頃、珍しく高熱を出したことがありました。
翌日も母は仕事で休むことができず、夜中に急いで買ってきてくれたのがルルでした。
飲んで寝ると、翌朝にはすっきりとした気分で目覚めることができました。
私は大事をとって学校を休みましたが、母は心配そうにしながらも、いつも通り仕事に向かうことができました。
その日、いつもより少し早く帰ってきた母が、お土産に買ってきてくれたプリンがおいしかったことを思い出します。
社会人になって風邪を引きそうだと感じた時に、昔を思い出して買っています。
河畠:このようなストーリーが調査を通じてたくさん表出したんです。
また、糖衣錠であることの価値を再発見することもできました。「小さい頃は薬を飲むのが苦手だったけど、ルルはほんのり甘いから飲めた」というストーリーから、糖衣錠の甘さが意外なほどお客様の記憶に残っていることがわかったんです。
MZ:逆に、研修で見えてきた改善点もあったのでしょうか。
河畠:ファンの声を掘り下げることで、ファンが求めていたことと我々がやってきたことの間にずれがあったと気付けました。具体的に言うと、ルルブランドでは少しでも効き目を強くするため、定期的に処方を変えたり新しい成分を追加したりしているのですが、ファンの方は処方強化をそれほど強く求めていないのだとわかったんです。今でも十分効いているということですね。薄々気づいてはいたものの、ファンとしっかり向き合うことによって一層クリアになりました。