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ノバセル田部正樹の事業を成長させる“商売視点でのマーケティング”とは

「広告で売れる」の意味を正しく捉えているか?西口氏×田部氏がブランディング投資について議論

 ノバセルの田部正樹さんが有識者・第一線のマーケターともに、事業成長に“真に”貢献するマーケティングとは何かを探っていく本連載。最初のゲストにはM-Force/Strategy Partnersの西口一希さんをお招きしました。田部さんがマーケティングのあり方に抱いている問題意識、テレビCMの制作・発注の双方を手掛ける中で感じる疑問に、西口さんはどのように答えたのでしょうか?

顧客不在のマーケティングに陥る要因

田部:連載の最初のゲストにはM-Force 共同創業者/Strategy Partners 代表取締役の、西口一希さんをお迎えしました。

 前提として、私はマーケティングとは、事業、経営そのものであり、またそういう自覚がないと戦略や施策に厚みが出ないとも考えています。西口さんは、大企業からスタートアップまでさまざまな企業を見られている中で、本来のマーケティングの姿と最近の動向についてどのような問題意識をお持ちでしょうか。

西口:まず言葉の定義が人によって異なり、マーケティングと言いながらもまったく違うことを話しているケースがとても多いです。ほとんどの場合は、ビジネスを成立させる顧客(WHO)と企業の便益(WHAT)の関係が抜け落ちたまま、いろいろな手段や手法、つまりHOWの話を模索する状態になっています。また、HOWの話の中でも、認知度や好感度、ブランドイメージが上がれば売れるなど、これまで業界で使われていた指標の有効性を疑うことなく使い続けている場合が多く、私はその点が問題だと思っています。

(左)M-Force 共同創業者/Strategy Partners 代表取締役 西口一希氏(右)ノバセル株式会社代表取締役社長 兼 ラクスル株式会社取締役CMO 田部 正樹氏
(左)M-Force 共同創業者/Strategy Partners 代表取締役 西口一希氏
(右)ノバセル株式会社代表取締役社長 兼 ラクスル株式会社取締役CMO 田部 正樹氏

 定義の話が出てきたのでマーケティングの歴史を簡単に振り返ると、1970年代にフィリップ・コトラー氏が理論を唱え始めた頃から、“マーケティング”という概念が広く認知され始めました。そして、エドモンド・ジェローム・マッカーシー氏がマーケティングの4Pを提唱し、1990年代前半になるとデイヴィッド・アーカー氏がブランディング概念を打ち出し、定着していきました。

 ところが、これらの話が整合性のないままに業界に広がり、広告ビジネスとくっつくことで、「マーケティングMIXをやろう」「広告は4Pの中のプロモーションとしてブランディングをやるものだ」という話になっていきました。しかし、これらの会話にはどこにも顧客が登場していません。ちなみにマッカーシー氏の説には真ん中にコンシューマーのCがあります。誰に売るかを決めた上で、プロダクトを、どの場所で、どの価格で、どのように告知、認知させて、どう提案して売るかという理論だったのです。このCがなくなり4Pだけが独り歩きしているのが、おそらくマーケティングをHOWだらけにした原因だと私は思っています。

「広告で売れる」の意味合いは、ネット登場前後で変わっている

田部:西口さんはマーケティングが顧客不在で進んでいる状況について、さまざまな場面で警鐘を鳴らしていらっしゃいますが、この傾向は、長く続いているというご認識ですか?

西口:インターネットの登場前後で、状況が変わっています。

 1980年代や1990年代前半のネットがない時代、「4マス」と呼ばれたように、主要なメディアは4つだけでした。プレスリリースで発表されたものをテレビ、雑誌、ラジオ、新聞が取り上げる。そして、会社や居酒屋、井戸端会議などでのクチコミの由来は4マスしかなかったんですよね。話題が少なかったので、新商品を出したら勝手にバズる。広告のクリエイティブの面白さがその印象にブーストをかける(押し上げる)意味ですごく役立った時代でした。広告至上主義でクリエイティブが面白ければ、人々が話題にしてくれて、モノが売れたということです。

 しかし2000年代以降、インターネットが普及したことで4マスの影響力が大幅に減少しました。情報は、量が増えて多様化し、勝手に拡散しなくなっています。前提が変わっているにもかかわらず、「広告で売れる」という認識がそのまま残っている。そこに4Pとブランディングという消費者の抜け落ちたマーケティング用語が広がり、デジタルマーケティングも加わって、顧客不在のまま進んでいるのです。

田部:インターネットの登場が、顧客不在のきっかけの一つになっているというのは同感です。ネットビジネスが定着したことで、マーケターが顧客と接する機会が減ってしまったことに、問題意識を持っています。

 そうしたマーケターの多くは、手法の話には詳しくても、生身のお客さまのことはよくわからない状態になりがちです。逆に言うと、積極的に顧客と接する機会を持ち、向き合うことができている人は差がついていくでしょうね。

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/03/22 08:00 https://markezine.jp/article/detail/38583

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