ファミリーマートが定めた「WHAT」とは?
西口:続けて「WHAT」についてもお話しください。
足立:5つのキーワードとしてまとめています。「もっと美味しく」というのが1番目ですね。美味しいものがファミリーマートにある、ということを明確な価値にしたい。「たのしいおトク」ということも、売りにしようと決めました。続いて、「『あなた』のうれしい」。いろんな方に喜んでいただけるような新商品、わくわくするようなものを用意していますということです。それから「食の安全・安心、地球にもやさしい」。安全・安心は会社として必ず提供しなければいけない内容なのですが、今後、ますます重要度が増すテーマなので、改めて入れました。
最後に、ファミリーマートには、今この瞬間も店舗に約20万人のストアスタッフが働いています。ファミリーマートに関わる私たち自身が楽しくないとお客様にも良い商品やサービスを提供できないので、「わくわく働けるお店」を入れました。この5つが、我々がお客様に対して提供していくこと、また訴えていきたいことです。

足立:ここまでWHOとWHATに向き合ってはじめて、コミュニケーションにおけるHOWの話ができるようになりますが、大きく2つのことをやってきました。1つは、オウンド、アーンド、ペイドの各メディアについて、メッセージに一貫性を持たせるということです。
西口:メッセージがバラバラになるという課題は、私も経験があって、かなり苦労しました。CMではタレントさんを起用しているのに、店頭のPOPには載っていない、コピーも違うとか。ファミリーマートさんではどんなふうに進めているのですか?
足立:各メディアの担当者が同じ会議に出るようにしたり、かつて代理店さんにはペイドだけをお願いしていたところを、オウンド、アーンドまで全部作ってもらうようにしています。もう一つ、私がCMOとして入社するときに、「お客様が目にするものは全部自分が見る」と決めてもらいました。そうすることでズレに気づいたり、統一性を持たせたりということができるようになりました。
西口:足立さんの仕事が膨大になると思いますが、それも良しとした……?
足立:はい(笑)。コミュニケーションの仕事にはまさに「神は細部に宿る」が当てはまると思っていて、SNSも店頭の看板もすべて大事にしています。お客様にとっては店舗で見てもCMで見てもネット上で見ても、同じ「ファミリーマート」です。法人としての人格が1つに保たれないといけない。
合わせて、オウンドとアーンドの強化も行っています。リリースは配信数を増やし、SNSは逆に投稿の数を減らしてエンゲージメントを上げるようにしています。
「CMO=CEO-バックオフィス」
質問3
マーケターのキャリアで、目指すべきはCMO? それとも経営者ですか?
足立:私は「CMO=CEO-バックオフィス」と捉えています。バックオフィスというのは、経理や財務、人事など。逆にCEOの中で“売るところ”にかかわる部分は、すべてCMOの領域だということです。例外として、たくさんのブランドを抱える会社のCMOは、その1つずつには深く立ち入らず、全体の調和をみたり組織を強くする仕事をすることもあります。
ファミリーマートでは、客数を伸ばすことが自分の役割です。なにかしらの数字を伸ばしていく「チーフグロースオフィサー」というのが、私の中でのCMOの定義ですね。

西口:この10~15年でマーケティング職に就く人がとても増えて、デジタルの浸透とともに若い方々も増えました。でもCEOやCMOになるには、4マスも勉強しなければいけないし、WHO/WHATも勉強しないといけない。
誤解のないように言うと、デジタルの仕組みは絶対理解しないといけませんし、覚えるべきことも20年前と比べて劇的に増えています。ただし1つの専門領域からはじめてCMOになるまでには、距離があるということです。
足立:「デジタルマーケター」を名乗って、デジタルのことしかわかりません、と言っている方は若干不安です。先ほど、マーケターは4P+Cの全部をみるのが理想と言いましたが、デジタルマーケターということは、4pの中のPromotionの、さらにその中のデジタルだけを担っている、ということになりますよね。
西口:確かに昔も「雑誌マーケター」とか「新聞マーケター」とは言いませんでした。視野を広く持って、4Pすべてに職域を広げていくのが良いのでしょうね。
パートナーも自社の組織の一員と考える
質問4
広告会社、IT企業、パートナー企業と良好な関係を築く秘訣は? また、新しいパートナー企業は、どのように探したり、見つけたりしていますか?
足立:良好な関係を築くためには、パートナーの方々も自社の組織であると考えましょう。自分の会社のメンバーに対しては、モチベーションを上げたり効率を高めたりする工夫をすると思いますが、そこについて、自分の組織と同じように努力していますか、というとだいたい皆さんしていないんですよね。それは間違っていると思っていて。自社のメンバーと同じように大切にする、たとえばエージェンシーさんのモチベーションや効率を上げて、ちゃんと利益が出るような働き方をしてもらえるようにこちらも考えないと、良い関係は長く続きません。
探し方は、私の場合はほぼ人づてですね。消費者としていろんな広告や企画を見て、「おもしろいな」と思うものがあったらその会社の方に「誰とやっているの?」と聞いています。あとはカンファレンスなど、知らない世界に出ていくことで、新しいサプライヤーさんやエージェンシーさんに出会える可能性が上がります。

西口:特に大企業では、パートナーにどこまで情報共有するか、という問題がありますが、足立さんはどう考えていますか?
足立:すべてのサプライヤーさんとNDAを結んでいるので、理論上は全部公開できる、ということになります。なので、各施策のレビューも、担当している・していないにかかわらず、すべてのエージェンシーさんに共有していますね。情報は社内外関係なく共有したほうがよく、共有しないのはヒットの確率を自ら下げているのと同じです。「来年のことはまだ決まっていないから内緒です」ではなく、「こんなことを考えているんだけど」というタイミングで共有すると、社外からもアドバイスもらえるので、企画の精度が高くなります。